戒律に厳しい異国では宴会野郎も小さくまとまる。そう言わざるを得ないのは、週明けに降り立ったドバイの地に、いわゆる“男のロマン”が皆無だからだ。博打、女は無論NG。酒を飲める場所、時間さえ極端に限られる。目下、日本馬の活躍に唯一の楽しみを見いだすしかない苦行の真っただ中だ。
それでも、
宮田敬介技術調教師が
アーモンドアイに帯同する形でドバイに滞在することは、当方にとってかなりの救いだ。宮田師は田島キュウ舎の助手時代からじっこんの間柄であり、見知らぬ土地で忌憚なく話せる相手がいる心強さは誰しも共感できよう。
そんな彼と実は以前、今週の
ドバイターフに出走する
アーモンドアイの走力の秘密について話し合ったことがある。あの圧倒的加速力はどこから生み出されるのか、である。
「追い切りは一度も乗ったことがないので、あくまで推測ですけどね。併せ馬をした時に隣で見て感じるのは、体の柔らかさに伴う四肢の可動域の広さ。脚が着地してから離れるまでの時間が、普通の馬と比べて格段に長いんですよ。つまり馬力を余すことなく地面に伝えられる分だけ、一完歩ごとの出力も大きいんじゃないですかね」
なるほど。そう思うと同時に、当方はもう一頭の“4歳の主役”の秘密にも、このひと言で迫れる気がした。今週のGI
大阪杯に出走する
ブラストワンピースである。
昨年のダービー出走時に勝手に抱いたのは「あの馬体に二四の距離が合うはずがない」という偏見。重戦車をほうふつさせる馬体は、まさしく重厚感のあるマイラーのそれだったからだ。その後の内容、結果は当方の完敗。あの長距離戦での最後の加速力は、どこから生み出されるか? この大いなる疑問に先週、答えてくれたのは主戦・
池添謙一だった。
「
有馬記念時もフットワークやキャンターに柔らかみが増して、いいなと感じましたが、今回はメチャメチャ柔らかかった。落ち着いているし、今まで乗った1週前追い切りの中でも一番良かった」
この言葉から伝わるのは、
ブラストに秘められた
アーモンドアイ同様の身体の柔軟性。馬体のイメージを覆す走りの原動力は、まさにそこにあると痛感した次第だ。おそらく、メイダンでも阪神でも躍動するのは「水色、赤玉霰、袖赤一本輪」の勝負服。その確信に至った目下シラフの宴会野郎である。
(ドバイの禁欲野郎・山村隆司)
東京スポーツ