王道--。それは読んで字のごとく。
競馬の世界で言えば、タイトル獲得に最も近いローテーションということになるのだろうか?
だが、昨今は“王道”という言葉の意味が薄れ、それぞれの馬がそれぞれに適したローテーションを組んで本番へと駒を進めてくるため、以前よりも格段に比較が難しくなっている。
「
桜花賞というレースを考えたとき、
チューリップ賞はローテーション的にも有利。王道という言葉にふさわしいレースだとは思いますよ。でも馬格のない牝馬を年明けに2戦させた時点で、前哨戦を走らせる選択肢はなかったですね」と
アクアミラビリスを出走させる吉村調教師。
前走の
エルフィンS勝ち時、418キロしかなかった馬にとって、このローテこそがベストの選択に違いない。「前走の末脚なら人気上位組にもヒケを取らないと思う」と吉村師。本領発揮となるかは当日の馬体に左右されると個人的には思っている。できれば、プラス体重。買い目に追加するかはそれを確認してからでも遅くはない。
ダノンファンタジーと再戦をせず、
クイーンCに向かった
クロノジェネシスと
ビーチサンバ。前走の馬体重が438キロだった
クロノジェネシスが、余裕のあるローテを選択したことに違和感は持たない。短期放牧で回復優先。実にわかりやすい戦略だ。
一方、
ビーチサンバは470キロ前後の馬格がある馬で東京への輸送も経験済み。王道の
チューリップ賞でも良かったのでは?
「いや、それはまったく違いますよ。気持ちの部分に難しさがあって、それが走りだしてからのコントロールにも影響するタイプ。燃え過ぎないようにしなくちゃいけないんです。この馬こそレースの間隔を空けてあげなくちゃいけない」と大江助手。
振り返れば、
アルテミスSのときに「異なる環境に気持ちが舞い上がり、カイ食いが悪くなってしまうかもしれない。それが心配材料」と言われていた馬。放牧にも出せない間隔で、馬を煮詰めていくことは避けたかったのだという。
「本番までの時間をもらえたことで、中間の調整にひと工夫を加えることができた。これは大きかったですね。これまでとは明らかに違う雰囲気。一発狙ってます」との言葉を聞けば、王道にこだわる必要性はないように思えてくる。
ちなみに記者が注目しているのは昨今の流行である“ゆったり”“ぶっつけ”などのローテとは正反対。中2週のキツキツローテで挑む
エールヴォアだ。
日程ももちろんなら、関東遠征後という背景も厳しめだが、
フラワーCのパドックを見たときに「まだ余裕あるじゃん」と思ってしまった。数字はわずかに4キロ増。だが、「馬体は数字ではない」が記者の持論でもある。
「確かに前走は数字以上の余裕を感じました。使ったあとの雰囲気を見ていると、大型馬の休み明けは簡単じゃないと改めて思いますよ」と五十嵐助手。
聞けば、前走を使ったあとの上積みはハンパないようで、「先週は久しぶりにウッドに入れてみたんですけど、行きっぷりからして前回とは違う。カイ食いも抜群だし、特に手を加える必要がない馬なので、中2週の日程は逆に仕上げやすい気がしています。ゲートの課題はありますが、普通に出れれば対応できるはず」。
その感触はまるで悪くないのに、前走2着のおかげで注目度は急降下。馬券の狙いはこれかな…と思いながら、誰にも気付かれないよう、週末まで静かに過ごそうと決めている。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ