ご苦労さんとしか言いようがない。何かと言えば、桜田義孝前五輪担当相が“袋叩き”の末にその職を辞した件だ。失言のたび遠慮なきバッシングを浴びたが、そもそも就任直後に「なぜ私が選ばれたのか分かりません」と語った人物。責めるのはお門違いであり、適材適所を声高に叫ぶなら、数こそ正義の選挙制度をまず疑うべきだろう。安倍首相には当時、総裁選に二階派票が必要であったし、過去にも派閥人事による大臣は何人も誕生しているのだから。
一方、失言もなければ派閥もないサラブレッドは、人間の欲さえ絡まなければ適材適所を実現しやすい世界。今週のGIII
福島牝馬Sに出走する
ダノングレースは、そんな背景を背に本格化を迎えた一頭でもある。
「札幌で新馬勝ちした当初は
桜花賞を意識させたほど。それが2戦目からは食いが落ちて、体の張りも出ず、3歳春を捨てざるを得なかった。ただ、同キュウに
アーモンドアイがいたこともあり、クラシックに固執しなかったのが良かったのでしょう。気持ちが折れる前に休ませたことで、秋はすっかりたくましくなって戻ってきましたから」
担当の寺本達郎助手が振り返る通り、500万さえ勝てなかった春がうそのよう。昨秋の福島(
西郷特別)で500万を勝ち上がると、その後わずか3戦でオープン入り。出世のカギとなったその適材適所の精神は、実は今回の重賞挑戦にも表れている。
「当初は
フロンテアクイーンと2頭出しプランもあったようですが、最終的に1頭で挑むことになりました。前走の競馬ができれば十分チャンスがありそうだし、器用で小脚が使える分、この馬は小回りの福島に替わるのはさらにいいと思うんです」(寺本助手)
かつて
宮田敬介技術調教師がこんな話をしたことがある。「普段は“この程度で出走を諦めちゃうの?”というほど慎重な国枝先生が、
アーモンドアイの
秋華賞だけは違っていた。爪不安で断念ムードだった周囲を“諦めず様子を見守ろう”と鼓舞しましたから。そんな見極めの鋭さが成績につながってきたことを感じる一幕でしたね」
トレーナーの最大の見せ場は、おそらく競走の出否や調教のサジ加減、その押し引きにあるのだろう。そして寺本助手の言葉を聞く限り…指揮官がフロンテアを引っ込めた決断に対して「なぜ私が選ばれたか分かりません」とは
ダノングレースも決して言わないはずである。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ