時計が速過ぎた、遅過ぎた、併せ馬にならなかった、逆時計になってしまった…。調教の失敗なんてものは、この世界にはゴロゴロ転がっている。それが意のままにならない「生き物」を相手にする“宿命”。むしろ、完璧な調教のほうが少ないのかもしれない。
オークスに出走する
エールヴォアがウッドで行った2週前追い切りも、分類すれば「失敗」のほうに入るのだろう。併せ馬の相手がまともにかかり、7ハロンからそこそこのペースで飛ばしてしまう形に。「あそこまでの追い切りは予定していなかったんですけどね」と苦笑い交じりに振り返るのは、管理する橋口調教師だ。
それでも、かかった相手に外を回って楽々と追いつき、直線ではほぼ馬なりのままで豪快に突き抜けてしまったのだから、調教の誤算によって改めて
エールヴォアのポテンシャルの高さを見せつけられた思いだ。計測された時計は6ハロン77.1-63.1-49.0-37.0-12.5秒というド派手なものだった。
「途中で1ハロンぐらい離されてしまったんじゃないですかね。これでは追いつかないと思ったけど、そこから大外を回って、馬なりで追いついて、あの時計ですから。しかも、あれだけの調教をした後でもケロッとしていました。やっぱり、すごい心肺機能を持っているんだなと思いましたよ」(橋口調教師)
もともと
オークスタイプと言われてきた馬だが、橋口調教師がはっきりとそれを意識したのは、デビュー2戦目だったという。阪神芝外回り1800メートルで6馬身ぶっちぎり、1分46秒8で走破した。2歳戦で同舞台を1分46秒台で制したのは、
エールヴォア以外に6頭しかおらず、そのうちの2頭はGI馬(
クラリティスカイ、
リスグラシュー)になっているのだから、価値のある数字だ。
「なかなかないような勝ちっぷりでしたからね。あのレースを見た時に、距離が延びたらもっと良さそうだと思いました。
桜花賞(7着)では、しまい結構な脚(32秒9)を使いましたけど、本来は長くいい脚を使うタイプ。心肺機能の高さを見ても、東京の2400メートルはピッタリでしょう」
オークスにおける過去10年の上がり3ハロン平均は約35秒2。例年通り持久力が問われるレースにさえなれば、ウッドで6ハロン77秒台の追い切りをしても“フーとも言わない”スタミナを持つ
エールヴォアが、好勝負に持ち込んでくれるはずだ。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ