今週の
オークスに担当馬
クロノジェネシスを出走させる和田保長助手と、今年の
フェブラリーSを制した
インティ担当の和田将人助手は兄弟。これは数多くの
メディアがすでに取り上げている。
しかし、記者にとっての2人は、荒尾競馬(残念なことに廃止されてしまったが)のリーディングトレーナーだった和田保夫さんのご子息という印象が強く、それに関する話は松田博キュウ舎に所属していたころの保長助手にも伝えている。
1995年秋。週1で熊本の荒尾競馬場に通っていた新米記者に対し、和田さんが「今週の天皇賞、どの馬が勝つと思う?」と話しかけてきた。で、ごく一般的に「
ナリタブライアンでは」と返した。春のGIこそ股関節の故障で見送ったものの、圧倒的な強さで前年のクラシック3冠を制覇した馬。
的外れな予想ではなかったはずだが、和田さんは「競馬をなめちゃダメだよ」と。どれほど強い馬でも、走るための下地がなければ、走ることはできない。競馬記者なら、それくらいはわかっていたほうがいい。そのようなことを言われた記憶がある。
エピソードの内容は簡素で、言葉を発した和田さんの記憶にもないだろう。しかし、言われた側はいつまでも覚えている。いわば、記者の原点。能力比較、適性うんぬんの話も“ベース”があればこそという、実に当たり前のことを教えてくれた人物――と勝手に感謝しながら20年以上の歳月を過ごしてきたわけだ。
そんな和田さんの名を保長助手から久々に聞いたのが昨年の暮れ。当時の
クロノジェネシスは初のマイル戦に疑問符を付けられている状況だったのだが、彼から「“スピードがあるからマイルも絶対に大丈夫”と親父に言われたんですよ」と。
この阪神JF2着だけでなく、それ以降の結果も含め、親父さんの
ジャッジは“さすが”だったのだが、これには後日談があって、実は
桜花賞(3着)のときには「“まともに走られたら
グランアレグリアにやられる”と親父は言ってたんです。“あの馬は今年の3歳牝馬で一番強い。スピードが違う”って。言われた通りになっちゃいましたよ(苦笑)」。
ただし、当時の
クロノジェネシスはカイ食いがひと息の状況で、地元・阪神での競馬だったにもかかわらず、東京遠征の
クイーンC(1着)から体重を減らしていたことは強調しておきたい。
グランアレグリアに勝ったとまでは言わないが、2着はあったのではないか。スムーズさを欠いたレースぶりも考慮して今回の一戦をイメージすれば、間違いなく好勝負できる――。その結論に至るのも必然だろう。
「親父も言ってくれましたよ。“
オークスは絶対にいいぞ”って」という心強い言葉を聞けば、あとは取材で最も大事な“ベース”の部分をしっかりと確認すればいい。
「こちらが与えた分のカイバはしっかりと食べてくれているし、時期的なものもあるけど、馬体の張りが
桜花賞のときよりもかなり良くなって、トモの部分には丸みも出てきています。
ジョッキー(北村友)は“左回りのほうが走りやすい”と言ってくれてるし、実際に調教で乗った感触も左回りのほうがいいんですよ。折り合いもつくので、距離延長に不安も持っていない。今回の条件はこの馬に合っていると思います」(和田助手)
ちなみに
桜花賞で△評価にとどめた
クロノジェネシスを◎に引き上げたとしても、それは“和田パパ”の評価をうのみにしたのではなく、自分なりに思慮を重ねた結果だと思ってもらいたい。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ