「ねえ、大ちゃん。アレってどうなの? やっぱり必要なの?」と聞いてきた清山助手といえば、他でもない
キセキの担当者。固有名詞が出てこないオッサン同士の会話が、指示代名詞だらけになるのはいつものことで、今では実母しか使用していない“大ちゃん”の呼び名も清山さんなら仕方がない。許そう。
もっとも、この会話のポイントは清山さんが切り出したアレ=翻訳機のポケトークについて真剣に考えていることであって、それは
キセキの
凱旋門賞遠征が現実のものになる日が近づいている――ということでもある。
現段階において、
キセキのフランス遠征は
宝塚記念の結果次第。いや、結果はもちろん、内容も問われる一戦だ。というわけで「ポケトークを使わずとも、スマホのアプリだけでOK。でも、あそこは田舎なのでWi-Fiのスピードが出ませんよ」と
シャンティイのプチ情報を提供しながら「でも、大きく負けたら行かないんでしょ?」と探りを入れてみた。「それはそうだけど、現在の
キセキに限って言えば、そんな状況は、まず起こらない」とスマホの画面を見ながら、ピシャリと清山さん。揺るぎない自信である。
「腹回りの肉づきが少し良過ぎる気はするんだけど、絞れない冬場ではないし、乗っていて太い感じもしない。“まだまだ成長している”という表現のほうが正解かもしれない」という言葉通り、現在の
キセキは、いつも以上に肉づきがいい。ブリブリだ。うがった見方をすれば、先を見据えた余裕残しの状態なのでは…。
「それはないけど、ここでしっかりと走ってもダメージは残らないかもね。それくらい馬がしっかりしてきた」と清山さん。
ジャパンCも、
大阪杯も、声を振り絞って全力応援してきたが、今回はパリロンシャンへと続く一戦。仮に遠征決定なら、記者も“便乗”しなくてはならないと思っている。いつも以上に声をからすレースになりそうだ――と、ここで話を締めたいが、今年の
宝塚記念は
キセキの快走を見るだけでは終われない。頭数は少ないのに、馬券を買いたい馬は五指に余る。本当に困った一戦だ。
「どこに行っても馬体重は変わらない。馬が勝手に体をつくってくれるんやから、人間は本当に楽やね。走ることが大好きだから大崩れしないし、見た目で分かるくらいに馬体も成長している。こんな牝馬は見たことがないで」という北口キュウ務員の話を聞くまでもなく、誰が見ても一目瞭然のすごい馬体になってきた
リスグラシューは、その扱いに最も困る馬だ。
同世代の牝馬相手に取りこぼしの多かった馬が、
グランプリで本命視されるほどになるとは想像もできなかった。さすがは成長力に富む
ハーツクライ産駒。実に素晴らしい。
素晴らしいといえば、在キュウでの調整期間は8か月以上。その状況をつぶさに聞き、一日一歩の着実な歩みを見せている
マカヒキは、それこそ3年前の秋に記者を
凱旋門賞へと連れて行ってくれた馬。損得抜きで応援してきた存在である。
「
凱旋門賞までの
マカヒキと現在の
マカヒキは違う。それを認識した上で、現在の
マカヒキができる最高のパフォーマンスを求めて手元でじっくりと進めることにした」と大江助手から聞いたのは昨秋。JCを回避したドン底の状態から、よくぞここまで…と思う。大江助手の熱意と手腕が結果という形で結実してくれれば、これほどうれしいレースもないだろう。
というわけで、非常に忙しいゴール前になりそうな今年の
宝塚記念は、こんな心配なら毎週でもいいくらい。とにかく、待ち切れない一戦である。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ