アク
シデントが起きたときは重賞を連勝したことで、“やけに偉そうにしていた”自信満々の
シャケトラ。下馬した辻野助手と駆けつけた上村助手に寄り添われながら、馬運車に乗り込む瞬間まで倒れ込むことなく、自分の脚で立ち続けた姿は当時の充実した精神状態を示していた――。だが、その状態に戻ったことこそが珍しいことだ。
「何がきっかけだったのか。正確にはわからないんですけど、GIで連敗中だった一昨年秋のシャケさんは、いつも“楽しくない”“走りたくない”と周囲にアピールしていて。状態は悪くないのに、まるで走ってくれなかった。
それが1年以上の休み明けで勝ったアメリカJCCの前は“走りたい”という気持ちを見せるようになっていたんです。常識的には厳しいけど、その一方でもしかして…と思えたのは、気持ちの変化を感じたから。正直、やめることを覚えた馬が気持ちを取り戻すのは難しい。ほとんどの馬はそのまま終わってしまうものなんですが、シャケさんは違いました。
走らなくなった理由もわからないけど、走りたくなった理由もわからない。ただ、1年の休養を経てからのシャケさんは走ることを本当に楽しんでいて、最後はガキ大将のように他の馬を引き連れて歩いていたほどでした。重賞を連勝したころは胸を張って威張り散らしてましたよ(苦笑)」(辻野助手)
彼の最後の瞬間は紙面では事故としてあっさりと“処理”される。だが、あの瞬間の
シャケトラは本当にすごかった、頑張ったとたたえたい。
シャケトラに対しての思いは世界一の上村助手のコメントを引用すれば、おそらく長い連載ができてしまうほど…なので、今回はあえて割愛。「あんな馬にはなかなか出会えない」のひと言だけを入れておきたい。
とにかく素晴らしい馬だった。今年のセレクトセールでは彼の半妹(
サマーハの18)が2億1000万円という高額で落札され、購入者は兄と同じ金子真人HD。父は
ディープインパクトに替わっても勝負服は同じだ。彼女が大舞台で活躍すれば、そのたびに
シャケトラの名が紙面にも登場するだろうし、そうなることを願ってやまない。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ