ラッキーライラックを取り上げた先週の当コラムで「スイッチを押すタイミング」について書いた。どこで仕掛けるかといった話ではなく、馬の“気持ち”をどこで入れるのか?そんな内容。
ラッキーライラックに関して言えば、気性の難しさで知られる
オルフェーヴル産駒。心身が完成されてくる時期まで「スイッチを押さなかった」ことが勝因となるかもしれないと…。
レースから2日後の火曜、担当の丸内助手に「書いてた通りになったね。良かったじゃない」と言われたが、それは濃い話を聞かせてくれた丸内助手のおかげでもある。下手な先入観を持たず、丁寧な取材が必要なのだと改めて思った次第だ。
スイッチを押すタイミングはそれぞれ。例えば、
マイルCSに出走するGI2勝馬
アルアインのそれは、
皐月賞の前でもなければ、
大阪杯の前でもない。池江調教師によると「ライアン(ムーア)が乗ったデビュー戦」なのだとか。
確かに最速上がりで抜けてきたあの一戦(16年4回京都芝内1600メートル)は、自分が聞いていた話、見ていた印象とずいぶん違うな、と思った記憶がある。当時は調教でそこまで動かず、併せ馬をすれば遅れてばかり。500キロオーバーの馬体を持て余していたのか、仕掛けたときの反応が鈍かった。
「少しモタモタしたところがあったから、初戦からはどうかと思っていたんだけど、スイッチを押してくれたのがライアン。あの一戦を契機にして
アルアインは本当の意味で競走馬になったと思っているし、それがデビュー戦だったことで、その後も順調に賞金を加算してクラシックに向かえた。仮に初戦がライアンでなかったら、この馬は
皐月賞も勝ってないだろうね」と池江調教師。
ムーアが乗らなかった3年間で
アルアインのイメージは固定化された。トレーナーも、予想をする我々も、おそらくはファンの方々も「内回りの2000メートルで馬群の中から競馬をする形が理想」と思っているだろう。そして、そこに間違いはないはずだ。
そのような状況と3着だった昨年のレースぶりなどを踏まえ、何かしらの指示を出すのかを問うと、トレーナーは静かに首を振り、「周りに馬がいたほうが闘志を燃やすタイプってくらいは言うかもしれないけど、基本的に乗り方の指示はしない。あれだけのジョッキーだからね。言う必要もないでしょうから」。
エリザベス女王杯では先行してしぶといはずの
ラッキーライラックが、馬群で脚をためる過去にない形から、上がり32秒8という想像もしていなかった末脚を駆使して、昨年の
チューリップ賞から1年8か月ぶりとなる勝利を挙げた。遠ざかっていたのは勝利だけでなく、最速上がりもまた1年8か月ぶり。騎乗していたのはフランスの名手スミヨンだ。ちなみにジリ脚のイメージが定着している
アルアインが最速上がりをマークしたのは18戦のキャリアで一度だけ。前述したデビュー戦がそれである。
今度は英国の名手ムーアが2度目のスイッチを押し、先入観をぶち壊す競馬を見せてくれるのか?馬だけでなく、人にも注目したい
マイルCSなのである。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ