デビュー2戦目で
京成杯を制して一躍クラシック路線に名乗りを挙げた
クリスタルブラック(牡3・美浦・
高橋文雅)。同馬のオーナーである岡田勇氏、生産牧場である北海道新冠町の大狩部牧場ともに、
JRA重賞初制覇となった。
大狩部牧場の代表・渡邉隆夫さんは、獣医師でもあり、
クリスタルブラックを管理する
高橋文雅調教師は北里大学獣医学部の後輩にあたる。かつてインター、キョウエイの冠名で名を馳せたインターナショナル牧場(現在は閉場)の場長を務めた経験を持ち、同場が閉場したのちに大狩部牧場を開場。今年でちょうど20年目と節目の年を迎えた。
「当初は中間育成をやっていて、繁殖を始めてからは12、3年くらいになります」
クリスタルブラック以前に地方では
クロスケ(牡5)が2018年に
黒潮盃競走(大井)に優勝。
クリスタルブラックと同馬主(岡田勇氏)の
クリスタルシルバー(牡5)がやはり2018年の
マイルグランプリ(大井)に優勝して、NAR
グランプリ3歳最優秀牡馬に選出されている。
2017年4月25日、黒鹿毛の牡馬が産声を上げた。父
キズナ、
母アッシュケーク、母の
父タイキシャトルという血統で、これがのちの
クリスタルブラックだ。
「綺麗な馬でしたけど、まあ普通でしたね。すごく似ているというわけではなかったのですが、2つ上の半姉
アシェット(牝5・2勝クラス)に雰囲気が似ているような感じもありました」
生まれたばかりの同馬の印象について、渡邉代表はこう話した。
「兄弟たちは競馬場に行くとキツいとか、カッとするところがあると言われていますけど、この馬の牧場時代は静かな方でそういう面はなかったですね。ヤンチャな馬だと他の馬に向かっていったり、蹴られたりと怪我が多いものですが、この馬は1回も怪我をしたことはなかったですから」
さらに牧場で過ごした期間も、さほど目立つ存在というわけでもなかったようだ。
母アッシュケークに
キズナを配合した理由を尋ねると「母親がアウトブリードの血統なので、サンデー系をと考えました。
キズナを選んだのはノースヒルズの場長も私の友達だっというのもありますね」と明かした
キズナは初年度産駒から重賞勝ち馬を既に4頭輩出するなど注目を集めているが、中でも
クリスタルブラックはもはや代表格と言っても良いだろう。
「
アッシュケークは
クリスタルブラックを産んだ後不受胎が続いたのですが、昨年
アメリカンペイトリオットを付けて受胎しました。5月5日が予定日です。今年はまた
キズナを付けようかなと考えています」
ところで同馬のオーナーの岡田勇氏は御年98歳。恐らく
JRA、地方合わせても最高齢馬主と思われる。
京成杯の時には中山競馬場で愛馬の走りを応援していたように、岡田オーナーはまだまだカクシャクととしていると渡邉代表は教えてくれた。また岡田オーナーと渡邉代表は大狩部牧場開場以前からの長い付き合いで、大狩部牧場で繁殖を手掛けるようになってからは、たくさんの馬を購入してもらっているとのことだ。
「コ
ロナの影響でGI出走馬の馬主も競馬場に入れなくなりましたからね」と、渡邉代表は残念そう。クラシック出走のチャンスはそう訪れるものではないだけに、岡田オーナーには競馬場で愛馬の晴れ姿を見てほしかったに違いない。
一方
クリスタルブラックは
京成杯後は放牧を挟んで、ここまで順調に調整をされている。
「馬がすごく良くなっていると聞いていますよ。やはり競馬場で応援はしたかったですけどね」と渡邉代表。それでも「当日は普段通りの気持ちで、テレビの前で応援します」と締めくくった。
オーナーや生産者、育成牧場、そして厩舎…。関わってきたすべての人の思いを乗せて、
クリスタルブラックが栄光のゴールを目指す。
(取材・文:佐々木祥恵)