ローテが競走馬の生涯を決定づける――。最近それを強く感じたのが、1月に東京で新馬勝ちした
エクランドールの次走を
手塚貴久調教師が語った時だった。
「牧場で様子を見てからだが、おそらく春は次の東京をもう1戦するだけじゃないかな」
スローの流れを7番手から鮮やかな差し切り。傑出した瞬発力は誰にも大きな夢を抱かせる。だが、全兄
フィエールマン同様、春2冠に見向きもしないのが陣営の姿勢。狙うべきは花か、実か。兄が手にした3つのGIタイトルを思えば、人の決断がサラブレッドの運命を握るのは確かである。
さて、今週のGIII
クイーンC(土曜=13日、東京芝1600メートル)は“花の咲かない”前哨戦である。
グレード制導入の86年以降、
クイーンC勝利馬の
桜花賞制覇は皆無。断然人気(単オッズ1・5倍)の16年
メジャーエンブレムでさえ4着に終わった。ゆえに
桜花賞で母子制覇がかかる
アカイトリノムスメがこの舞台をなぜ選択したのか…。当方は疑問を抱かずにいられなかった。
「実が入り切らない細身の体で、まだカイ食いも安定しないからね。やはりレース間隔を空けて
桜花賞に挑むのが、現状は最善策と思ったんだ」
国枝栄調教師はサラリと答えた。だが、信じるべきはDNAの力ではないのか?新馬戦を負けて2戦目の東京・未勝利で初V。続く
赤松賞を連勝の成績は3冠牝馬の
母アパパネと、うり二つ。しかも2戦のV時計まで母と寸分たがわない。これぞ“奇跡の系譜”であり、普通なら同じ道(阪神JF→
チューリップ賞)を歩ませるのが人情だ。消えない疑問に答えてくれたのは、番頭格の鈴木勝美助手だった。
「
アパパネは新馬直後の放牧で体が24キロ増えたけど、ムスメは4キロ増。総合力が武器だった母に対して、子はス
トライドの大きさや爆発力が売りだからね。成長曲線を含めて親子でも違いは大きいよ。でもね、マイルの性能なら
サトノレイナス(阪神JF2着)に劣らないと思わせる馬。どの
ステップであれ、かける期待に変わりはないよ」
実は
クイーンC出走馬には、もうひとつの傾向がある。それは
クロノジェネシスを筆頭に、古馬になってからGI戦線で活躍する馬が近10年でも五指に余ること。つまり“桜の花”は咲かずとも、後に大きな実がなるのである。3歳春が
ピークだった
アパパネとは違う輝き…。ひょっとしたらムスメには、そんな未来が託されているのかもしれない。
(美浦の劣性遺伝野郎・山村隆司)
東京スポーツ