2月末で解散する西浦勝一厩舎の石橋助手は20歳のとき、ファンタストクラブで休養中の
テイエムオーシャンに騎乗していた時、初めて西浦師と出会いました。
「馬を見る目は厳しく、最初の印象は怖かったです。でも、馬から降りると食事に誘っていただくようになり、やがて
JRAの厩務員への道が開けました」(石橋助手)
トレセンに入ったあとは16年間、西浦厩舎ひとすじの馬人生。最近の担当馬は
テリトーリアル。2019年に準オープンの
難波S、リステッド競走の
カシオペアSを制するも、そのあと、重賞ではあと一歩の成績が続いていました。
「昨年の秋、リステッド競走の
オクトーバーSは勝ちましたが、そのあとの
福島記念は3着。続く、
中日新聞杯も大事に乗ってくれたのですが9着。年が明けた
中山金杯も切れ味勝負の競馬になってしまい展開が向かず6着。と、悔しい競馬が続いていたんです。
でも、うちの先生は石川騎手を乗せ続けてくれました。そして、今回の
小倉大賞典では『この馬の力を信じる競馬をしよう』と話していたんです」
7歳馬。脚元は絶好調とまではいかなかったけれど、心臓の音は抜群に良かったそうです。
「西浦先生には公私にわたり、本当によくして頂きました。ただ僕はまだ重賞を勝てなかった。だから、先生の厩舎でお世話になっているうちに、なんとか師匠に重賞をプレゼントしたかったんです」
そして、先週の日曜。西浦厩舎解散を翌週に控えた
小倉大賞典。離れた3番手からレースを進めた
テリトーリアルは、直線で馬場のいい外に出してじっくりと追い出しました。白く大きな作が目立ち、前をとらえる勢い。外から脚色よく
ボッケリーニが迫ってきましたが、持ち前の渋太さでなんとか粘り切り、ハナ差で勝ち切りました。
「きわどい差だったので、石川騎手も僕もどちらが勝ったのか、わかりませんでした。でも、勝ったとわかった瞬間から涙が止まらなくて。やっとやっと、師匠に恩返しが出来た。間に合って良かった。と、胸がいっぱいになりました」
そして、溢れる感激と共に栗東に戻った人馬には、思いがけないプレゼントが待っていました。
「西浦先生が僕にお祝いの花を届けにきてくれたんです。びっくりしたと同時に、ここまでして頂けるなんて、また感激してしまいました」
重賞を勝つと厩舎には様々な方からお祝いの花が届きます。でも、調教師が自らスタッフに重賞勝ち祝いの花を贈るなんて、少なくとも私は初めて聞きました。なんてステキな師匠なんでしょう!
「僕がプレゼントしたつもりでしたが…さすが師匠です。ハナ差でしたが、大きな大きな勝ち星でした」
(取材・文:花岡貴子)