今年の勝率は１１・１％で、複勝率が３５・２％。トップジョッキーにも劣らない数字を残している若手ジョッキーがいる。森裕太朗（２４）＝栗東・フリー＝だ。

　複勝回収率は１０９％と、ベタ買いをしてもプラス収支になる計算。穴党の私にとって本当に頼りになるジョッキーだ。ただ、腕と周りの評価が見合っていないのではと個人的に思っている。２月２１日の阪神では１０鞍の出番があったが、普段は決して乗り鞍が多い方ではない。もっと増えていいのではと思うほど、最近の騎乗ぶりは魅力がある。

　もともと穴ジョッキーとして注目していたが、昨秋から存在感が一気に増した印象。決して突然の飛躍ではなく、これにはしっかりとしたきっかけがあった。

　転機となったのは昨年４月。フリーから角居厩舎への所属変更だ。「（１８年３月に鈴木孝厩舎から）フリーになってから自分の中で乗れていなくて、限界かな、このままじゃまずいなと思っていました。所属の話は角居先生と共通の知り合いからしていただいて、実際に話す機会を設けてもらいました。そしたら先生は『残り１年だし、最後にジョッキーを預かるのも面白いかな』と。お世話になってから、フリー時代とは大きく変わりましたね」と当時を懐かしむ。

　角居師の下に身を置いてから、毎週火曜には一緒に前週のレースビデオを見て、たくさんのアドバイスを受けた。「その時に先生から『勝つ競馬ができていない』と。先行して外２、３番手を進めるという王道の競馬が少なく、後ろからで展開任せということが多かったんです」

　レース運びに対する意識が前向きになり、積極的な競馬が増え、それが結果として表れている。「『これだと勝てる競馬も勝てない』と、かなり強めに言われました」。師匠による愛のムチで、心のギアが上がった。

　教わったのはレースに対するマインドだけではない。「『感謝の気持ちを持って乗れ』とも言われました。それができてようやく馬に乗せてもらえますし、初歩的なことですが大事だなと思います。オーナーさんや調教師さん、厩舎スタッフさん、あとはこのご時世ではできないですが、牧場へあいさつに行ったりとか。人間的なところを教えていただきましたね」。角居師は人間・森裕太朗も変えたのだ。

　騎乗技術も着実に向上している。「先生の紹介で、福永さんも教えているコーチに見ていただけることになったんです」と、昨年の夏前から一流騎手をも育てた動作解析のトレーナーに師事。乗り方や競馬の見方を少しずつ変えていった。

　「コーチングしていただいた方や先生とビデオを見たりして、気づいた部分とかを生かせました」と振り返るのは、昨秋に初めてまたがり、１１番人気３着→４番人気２着と好走を続けたタイミングナウ。難しい馬で昇級後は大敗続きだったが、追い切りから騎乗し、これまで学んだことをアウトプット。低迷していた素質馬を見事に立て直した。「馬へのアプローチが変わって、そのおかげもあって成績が上がっているのだと思います」と、確かな効果を実感している。

　ちなみに、これまでのキャリアの馬場別成績では芝が１３勝に対して、ダートが６１勝。本人も「千八ダートは乗りやすいですね」と話している。そのあたりの条件では特に注目したい。

　今年で６年目を迎え、この３月から減量の恩恵がなくなった。加えて、先月末をもって角居厩舎も解散。ここからの浮沈は、自らの手腕に懸かっている。

　「減量がなくなるので、ある意味新たなスタートになります。先生に教えていただいたことを、これからの騎乗にしっかりと生かして、恩返しができるように頑張ります」

　コンスタントに結果を残し、能登（石川県）にいる師匠に吉報を届けられるように―。きっといつか大輪を咲かせるはずだ。

（デイリースポーツ・山本裕貴）

提供：デイリースポーツ