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時代に沿って未来を描く高橋忠厩舎に注目!

デイリースポーツ
  • 2021年06月01日(火) 11時00分
 最近は『ウマ娘』の大ブームにより、ギャンブルという側面以外から競馬に興味を持つ人も多いらしい。競馬の入り口に立った人に、ぜひ見てもらいたい。ユーチューブの『高橋義忠TV』だ。私たち記者は日々目にするものだが、調教師の一日や、厩舎の馬具庫の紹介などは、恐らく多くの人が知らないことばかり。より身近に感じてもらえるのではないだろうか。

 今回はそんな高橋義忠調教師について紹介したい。競馬界には“トレ子”という言葉がある。“トレーニングセンターの子”を略したものだ。父が調教師やジョッキーなら、その子はジョッキーか助手を目指し、それを実現。さらには調教師となる。調教師なら池江泰郎元調教師→池江泰寿調教師、騎手なら故・武邦彦元調教師→武豊騎手といった伝承。高橋義忠調教師の父は高橋成忠元調教師。ジョッキーから調教師に転身した父を持つ、いわゆる“トレ子”だ。

 競馬サークルは家業を継ぐのが大半。記者はその流れが必然だと思っていたが、「実は、馬の仕事をしたくなかったんです」と義忠師。“トレ子”なのに、なぜなのか。「一人っ子だけど、継ぎたいなんて一切思わなかった。親父も調教師になれよ、なれよ、って人じゃなくて。“自分の人生は自分で決めろ”という人。ああしろ、こうしろと言われたことがなかった」と説明する。

 子どもの頃から描いていた夢があった。「パイロットになりたかった。3歳で初めて飛行機に乗って、操縦席を見せてもらったのがきっかけ。航空関係の仕事をしたくて、それしか頭になかった。高校生の時にJALの機長さんに“どうやったらパイロットになれますか?”って手紙を書いて返事をもらいましたよ。でも、理系が得意じゃなかった…」。後ろ髪を引かれる思いで、空を飛ぶことを諦めた。

 馬の仕事に就くきっかけは、イギリスでの海外研修だった。「語学を学びながら馬の世界も見てみようか、と。サー・マーク・プレスコット調教師の下で研修した。サーが付くぐらいなので厳格な、ザ・英国人。朝から調教にもネクタイをしてくる。ホーストレーナーというのはイギリスでは別格でね。その時、馬の仕事も面白いかなって思った」。94年7月にJRA競馬学校厩務員課程に入学。“トレ子”としては遅い25歳だった。

 調教助手を経て、10年に調教師合格を果たすと、翌11年3月に厩舎開業となった。「調教師を目指したのは、やりたいことが出てきたから。従業員だとできない、ということに気付いた。日本の競馬のあり方。こうしたほうがいいのでは?と僕なりにあったので。実現したい、少しでも変えたい、と思って調教師になったクチ」と話す。ダービーを勝ちたい、凱旋門賞を勝ちたい、と夢を描いて調教師になる人が多い中、高橋忠師のきっかけはどこか異色だ。

 厩舎経営は、父の思いを継いだものなのだろうか。「1年間の研修期間がなくて、合格してすぐの開業。親父が心配してよく厩舎に来ていました。不器用ながら、アドバイスしてくれるわけです。でも、全部変えたいと思った。親父は歴史を築いてきた人だけど、これから先、親父と同じことをやっていたら苦しむと思った」。同じ調教師でも、違うアプローチを選んだ。

 冒頭に触れたユーチューブ以外にも、ホームページやパンフレットを作り、時代に沿ったツールで厩舎や競馬を広めようと尽力している。「他の人がやっていないことで自分を覚えてもらおうとした。親に流れをつくってもらうと、自分でやらなくなる。ただ、自分が困った時に思うんです。親父はこう思っていたんやろうな、と。今になって、調教師になって、父が調教師でよかったなと。ありがたみがようやくわかった。従業員だと一生分からなかったでしょうね。一緒の立場になってみるもんです。今でも親父は“ワシはこうしてきた”“ああしてきた”って一切言わない。それが主義だと思う」。適度な距離感がお互いにとって心地いいのかもしれない。

 描く厩舎像がある。「調教師は汚れ仕事だと思っています。欲がないと言うとウソになるけど、従業員さんがやりがいを持って、ここにいて良かったなと毎日思ってもらいながら、自発的に働いてくれるのが一番いい」。栗東トレセンで一番と断言できるほど、きれいな厩舎だ。そして、ジョッキーからは「いいスタッフがそろっている」「いい厩舎」と聞くことが多い。それもトレーナーを深く取材して納得できた。これからの活躍を願うばかりだ。

(デイリースポーツ・井上達也)

提供:デイリースポーツ

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