長きにわたりゲームや競馬本、近年だとAIなどにより多種多様な分析・言語化をされている「競馬」。その中には的を射るものも多いだろう。巷で言われているジンクスや馬のスキルのうち、本物の競馬を見る上で取り込みたいポイントはどこにあるだろうか? ゲームなどでよく使われる馬の「能力」「特性」について、競馬初心者にもわかりやすいレベルで、プロ予想家の見解を伺っていく。今回のゲストは、血統予想のスペシャリスト・栗山求氏。(取材・文=緒方きしん)
──現実の競馬でもゲームなど
フィクションの競馬でも、血統は重要な
ファクターとなる印象です。特に『奇跡の血量』は耳にしますが、本当に意味はあるのでしょうか?
『奇跡の血量』は、無敗の二冠馬トキノミノルがThe Tetrarchの3×4のクロスを持っていたことで話題になり、日本における最初の血統論として流行したものだと思います。血統論というのは経験と統計により発展してきたもので、数字的な裏付けがなくてはいけません。そして、今でも実際に2×3や3×3のような強すぎるクロスはよくないというデータや、3×4は平均よりも走るというデータがありますので、当時の『奇跡の血量』における経験則は、正しかったことになりますね。近年、とある大牧場が配合を考える際にも、
サンデーサイレンスの3×3を避けて、3×4は採用するという方針だと聞いています。
──
サンデーサイレンスの『奇跡の血量』は、最近よく見かけますね。
かつてはサンデークロスをどう避けるかという時代もありましたが、今やサンデークロスは配合の中心と言って良いでしょう。
エフフォーリアや
デアリングタクト、
アリストテレスといったエピ
ファイア産駒の活躍馬は、多くがサンデーの『奇跡の血量』を保有しています。
エピファネイアなどサンデーのひ孫にあたる種牡馬は、海外の繁殖よりも国内で実績のある繁殖との配合でサンデークロスを狙うのが良さそうです。中距離向きのスピードが受け継がれやすい傾向にあります。
──やはり、親から子へ、能力や特性の「継承」というのはあるものなんですね。
もちろんです! 特に、気性が伝わりやすいかなと思います。人間でも親子の性格って似たりしますよね? 例えば、カッとしやすいとか……(笑)。だから、例えば泥が顔にはねても気にならないような気性が受け継がれていれば「道悪巧者」という特性が受け継がれていることになります。他にも、逆境に強い血統などはあるでしょう。こうした気性や馬体、走り方といったダイレクトに競走能力に関係する要素が似る場合もあれば、顔が似ているといった何気ないところが似ることもありますから、遺伝は難しいです。
──さて、今週は
宝塚記念です。
宝塚記念といえば非根幹距離のGIですが、栗山さんは“非根幹距離が得意な血統”は存在すると思いますか?
存在しますね。日本の場合、非根幹距離のレースは小回り、内回りの競馬場に集中しています。短い直線を得意とする馬、持続力のある馬、器用な馬、馬群にひるまずに伸びていける馬というのがこうした条件のレースで活躍します。
小回りが得意な血統の代表は、ロベルト系です。瞬発力で直線勝負に持ち込むよりも、スピードの持続力に長けた血統なので、
有馬記念・
宝塚記念をはじめとした非根幹距離のレースでは強さを発揮します。例えば
グラスワンダーは、有馬と宝塚で合計3勝をあげています。同期のダービー馬
スペシャルウィークは、
天皇賞(秋)や
ジャパンCを制覇したように瞬発力勝負の馬でしたから、有馬・宝塚では
グラスワンダーに勝てずに終わりました。根幹距離・非根幹距離の適性を示す、非常にわかりやすい例かと思います。今年の宝塚でいうと、
エピファネイア産駒の
アリストテレスは、
グラスワンダーと同じくロベルト系ですね。
──
ゴールドシップが、過去に
宝塚記念の2連覇を達成しています。
おっしゃる通り、
ステイゴールド系も非根幹距離に強いですね。
瞬発力が1番の武器である他のサンデー系とはやや違う傾向にあります。中でも
ゴールドシップは特に持続力が求めらるレースに強く、さらには荒れた馬場を得意としていましたから、
宝塚記念への適性は非常に高かったと思います。何と言っても、あの
ジェンティルドンナすら倒していますから。
また、
ゴールドシップの場合、母父の
メジロマックイーンも大きく影響しています。あの馬もスタミナ・持続力に長けた馬でした。
父ステイゴールド×母
父メジロマックイーンの組み合わせは、ニックスと呼ばれていましたね。
ニックスというのは、特定の血が組み合わせられるとよく走る、という古典的な血統論であり、私の中でも基本となっている思想です。レースを見ながら「この血とこの血は相性がいいよね」ということを考えていくと、POGや
一口馬主などにも興味がわくようになり、単純な馬券の当たり外れよりも一段階深い楽しみ方ができると思います。ぜひ皆さんも、血統に注目し知識を深め、競馬の世界を広げてください!
上半期の総決算、
宝塚記念は6/27(日)15:40に発走。