長きにわたりゲームや競馬本、近年だとAIなどにより多種多様な分析・言語化をされている「競馬」。その中には的を射るものも多いだろう。巷で言われているジンクスや馬のスキルのうち、本物の競馬を見る上で取り込みたいポイントはどこにあるだろうか？ ゲームなどでよく使われる馬の「能力」「特性」について、競馬初心者にもわかりやすいレベルで、プロ予想家の見解を伺っていく。今回のゲストは、王道スタイルの人気予想家TARO氏。(取材・文＝緒方きしん)

──ゲームなどで「非根幹距離が得意」という特性を見かけます。実際、非根幹距離が得意な馬というのはいるものなのでしょうか？

非根幹距離が得意な馬は、実在しますよ。根幹距離(1200m・1600m・2000m・2400m)のレースと、そうではない非根幹距離のレースは、求められている能力が違います。そして、日本競馬の主要レースは基本的に直線の長い根幹距離で行われます。秋には東京競馬場で天皇賞(秋)やジャパンCが開催されますが、どちらも根幹距離ですよね？ これらのレースはスピードや切れ味を問われます。しかし非根幹距離の有馬記念が開催されるのは、直線の短い中山競馬場です。非根幹距離のレースは持久力やスタミナを求められますから、天皇賞(秋)やジャパンCの結果があまりリンクしないのです。

──求められる能力が違うから、非根幹距離レースを得意とする馬が出てくるわけですね。

近年最強の切れ味を持つアーモンドアイも、有馬記念では負けてしまいました。非根幹距離では、東京競馬場で強い馬が実力を発揮できないことが多いです。ゴールドシップはわかりやすい“マラソン”ランナーで、非根幹距離で圧倒的に強いタイプ。過去の名牝だと、エアグルーヴやウオッカは根幹距離の決め手比べに強いスピード型で、リスグラシューはむしろ非根幹距離に強いスタミナ型でした。スタミナ以外だと、コーナリングがうまいタイプも非根幹距離のレースに強いですね。ウオッカみたいに大跳びであるよりは、クロノジェネシスのようにピッチ走法の方が、阪神・中山では有利です。

──他にも、「夏馬」なんてよく聞きますが。

うーん……夏が得意な馬も勿論いるんですが、その理由や背景は様々なんですよ。季節＝気温というだけではなくて、夏ならではの環境があるからこそ、普段とは違う結果になっている面もあります。夏で使う札幌・小倉競馬場が得意だったりとか、調整方法が得意だったりとか……。メイショウカイドウという、一時期夏馬と呼ばれていた馬がいましたが、あの馬も結局は夏というより小倉が得意な馬でした。「夏馬」といっても、一括りには出来ませんね。

──競馬場に得手不得手があるということは、これまたよく言われる「右回り○」というスキルは信憑性が高そうです。

右回り・左回りの得手不得手は、間違いなくあります。ただ、表現は難しいのですが、ほとんどの馬はこなせてしまいます。インディチャンプも元々は左回りしか走らないとか言われていたんですが、マイルCSでも勝ちました。サイレンススズカも、馬房で左に旋回し続けていたというエピソードなどがある通り左回り専門と言われていましたが、宝塚記念で勝利しています。例えば、スプリンターが天皇賞(春)のようなスタミナレースに出てきたら好走はほぼ不可能ですが、左回り巧者が右回りに出てきた場合などは、たいていどうにかなります。直線の長さや、坂の有無など、馬には多くの適性がありますが、そのうちのひとつくらいの認識で良いと思います。競馬には様々な要素がありますが、あまりに取り入れすぎると逆に答えから離れていきますので、注意が必要です。

──最近のゲームでは、風の影響を避けるといったスキルもあるようです。

近年、風の影響というのはよく議論されるようになりました。2016年の皐月賞は現地にいたのですが、ものすごい風が吹いていたのを覚えています。向正面では向かい風だったのですが、そこでポジションをあげようとしたリオンディーズはかなり消耗したと思いますし、逆にゴール前では追い風としてディーマジェスティら追い込み勢に味方しました。ですから、レース展開や一部の脚質の馬に影響が出ることはありますし、時計面にも影響を与えます。最近は気象予報の精度が上がって、ある程度風を予測できるようになったことも大きいですね。

──宝塚記念に向けてだと「阪神競馬場が得意」という馬を探したいところです。

阪神競馬場はよく「おむすび型」と呼ばれる特殊な形をしている上に、直線には坂がありますから、得手不得手は出やすいコースです。パワーが重要なので、筋肉が豊富な馬はプラスだと思いますよ。箱根駅伝とかでも、5区の山登りに強い選手はガチッとしている人が多いですよね？ 平坦では瞬発力で劣るタイプの逆転があるコースです。例えば、グラスワンダーみたいなムキムキな馬には、阪神競馬場が合っていますね。宝塚記念の当日は、各馬の筋肉にもご注目ください。

上半期の総決算、宝塚記念は6/27(日)15:40に発走。