あれから間もなく丸1年になろうか。当方は
新潟記念の取材で新潟競馬場に出張していたのだが、メインレース後の検量室取材で、今でも忘れない印象的な出来事があった。
ブラヴァスで重賞制覇を果たした
福永祐一が我々に“逆取材”をしてきたのだ。
「ところで
小倉2歳Sは何が勝ったの?
メイケイエール?やっぱり!新馬戦は自分が乗ってたんやけど、めっちゃいい馬やったもん。そうか〜。やっぱり勝ったか」
トップジョッキーに「めっちゃいい馬」と思わせ、重賞V後には「やっぱり」と言わしめた
メイケイエール。これは相当な器に違いない――。取材ノートには同馬の名前をハッキリと濃い字で書き記したのだった。
その後の
メイケイエールの戦績はご存じの通り。続く
ファンタジーSで重賞連勝を飾ると、年明けには
チューリップ賞も制した。一方でレースを重ねるにつれ、課題も浮き彫りに。とにかくレースでかかるのだ。
ファンタジーSこそ何とか4番手でなだめられたが、その後は一戦ごとに折り合い面の難しさを出すようになり、ついに
桜花賞では大暴走の果てに18着シンガリ負け。
「一体、どんな馬なんだろう…」
関西馬のため、ずっと取材する機会がなかったのだが、当方の関心は高まるばかり。そしてついに今週、
キーンランドC(29日=札幌芝1200メートル)に出走する
メイケイエールを札幌競馬場で取材することができた。
第一印象は“とにかくおとなしい馬”。レースで見せるような“狂気”はどこにもない。調教役の荻野助手に聞いても「そうなんですよ。競馬に行くと前しか見えなくなっちゃうんですけど、普段はこんなものなんです」と涼しい顔。てっきり普段からテンションの高いおてんば娘なのかと思っていたのだが…。
その背景には陣営の“采配”がプラスの影響を与えているのかもしれない。復帰初戦を実績ある小倉の
北九州記念ではなく、札幌の
キーンランドCにした理由を
武英智調教師が話してくれた。
「まず滞在競馬であること。それから生まれ故郷のノーザンファームで精神的に
リラックスさせたかったのもあります。あとは(武)豊さんも“
キーンランドCがいいのでは”と言っていたので。おかげで雰囲気はすごくいいし、カイバをよく食べて体も大きく成長していますよ」
心穏やかでエンジン全開が可能な態勢とあれば、あとは“世代”の力が後押ししてくれるだろう。先週は
北九州記念を
ヨカヨカが、
札幌記念を
ソダシが制したように、この夏の3歳牝馬の活躍は目覚ましいものがある。
「本当ですよね。そういう中で重賞をすでに3つ勝っているのですから、冷静に走ってくれさえすればモノが違うのではないかな…という思いはあります。周りが速い1200メートルのペースはいいと思いますし、ここは今後を占う大切なレース。ぜひ、いい結果を残して秋に向かいたいです」
生まれ故郷で英気を養い、すっかり大人になった
メイケイエール。春の“おてんば娘”のままだと思っていたら痛い目に遭いそうだ。
(札幌でヘルプ野郎・藤井真俊)
東京スポーツ