寒風吹きすさぶ中、冬枯れの芝で行われる正月競馬の名物重賞。“
日経新春杯”という響きを聞くと悪条件の中でもまずは全馬無事に走ってほしいという願いを抱いてしまうのは「
テンポイントの悲劇」をいまだ記憶しているオールドファンだけでしょうか。
1978年の当レースで
テンポイントが課せられたのは66.5キロと今の時代では考えられない斤量。彼を取り巻く環境が悪条件として重なり合ったことによって引き起こされた事故は、誰の責任と問われるものでもないでしょう。彼の遺したものを教訓として、日進月歩の勢いで時代も競馬も変わっていきます。
格式高いGIIとはいえ、酷とも思えるハンデを背負うGI馬は出走を見送り、GIの舞台でこれから活躍する素質馬を出す役割を担うのが現在の立ち位置。そして、もうひとつ大きな変化として注意を払う必要があるのは、芝の保全技術の向上ではないでしょうか。
京都競馬場の改修工事に伴って開催過多が懸念された昨年末の阪神、12月のローカル開催から1週空けて関西主場の開催となった中京。厳寒期の開催が進んでも、週が明ければ芝は生育してグリーン色を保ち、内めの馬場が少し荒れたように見えても、外差しが決まるでもなく先行馬がそのまま残ってしまう。もはや「冬枯れの芝」なんて言葉は死語であり、開催が進むほど各馬が内を避ける馬場となって差しが決まる…なんて競馬の常識は通用しなくなったのかもしれません。
踏み荒らされても持ちこたえる生命力のある芝を今風に例えるなら“持続可能な馬場”となるのでしょうか。ただし、それは切れ味を生かせるパンパンの軽い馬場ではなく、どちらかといえばスタミナを要する馬場状態であることにも気をつけなくてはなりません。そんな馬場となった正月4日間の中京開催の傾向を分析し、有利に働く材料とみているのが
マイネルウィルトス陣営です。
「芝は前に行かなければ勝負にならないといったレースが続いたでしょ。それを見越して早めに動くジョッキーたちの動きも目についたし、今回のメンバーならレースは流れると思うんだ。ウィルトスは緩急のついた流れがあまり得意ではないから、そうなってほしいところだね」
展開利の見込めるレースになるとの見解を示した宮調教師は「道悪とまでは言わないけど、今は力を要する芝といった感じだから、いい条件だと思う」と馬場への適性にも期待を寄せている。
思い返せば、昨年4月に新潟で行われた不良馬場の
福島民報杯で2着馬に1秒8もの大差をつけて勝利したのが
マイネルウィルトス。オープンで大差勝ちしたのはあの
サイレンススズカ以来であるとか、その後に
凱旋門賞への登録を行ったことで注目を集めましたが、馬場の傷みがこれ以上はないくらい激しくなった中で見せた、最高のパフォーマンスであったことに注目しなくてはならないでしょう。
「ウィルトスには消耗戦というか、周りが脱落していく中で生き残りをかけるようなレースが合っているからね」と締めた宮調教師には、厳しい条件であればあるほど能力を発揮する
マイネルウィルトスが、激流の中を抜け出すシーンがすでに見えているのかもしれません。
(栗東のバーン野郎・石川吉行)
東京スポーツ