早くもというか、ようやくというべきか。広告営業マンから“無謀なる転身”を遂げた我が競馬記者人生も、今年の
日本ダービー(29日=東京芝2400メートル)ウイークで4年目に突入する。競馬記者歴どころか、取材記者歴ゼロでダービーの喧騒に放り込まれたことを例えるなら、短距離戦の経験しかない馬がいきなりダービーの舞台、東京2400メートルに出走するようなもの…とするのはいささかオーバーかつ不遜な表現となろうか。
いまだに“適鞍”を求めてさまよう中年記者の話はさておき、ダービー出走馬の舞台適性の有無が予想に際しての最も重要な
ファクターであることは言うまでもない。関西馬の大将格とされる
ドウデュースですら、未知の舞台である東京2400メートルへの対応に関しては半信半疑の域を出ていない。実際、今回の出走馬の中で当舞台を経験済みなのは
青葉賞の1、2着馬のみだ。
しかし、
青葉賞からの臨戦組でダービーを制した馬は過去にただの一頭すら存在しないのは競馬ファンには常識中の常識である「負のジンクス」。短期間に2度好走することが極めて困難なタフなコース設定ということなのだろうが、仮にこの2頭を圏外とするならば、こと舞台経験においては全馬横一線。つまり、
皐月賞11着敗戦により
ノーマーク状態の
ビーアストニッシドにも十分チャンスはあるわけだ。
調教で見せる旺盛な前進気勢と、競馬場で見せるハイテンションから、手のかかる馬と思われがちだが、担当の佐々木助手に言わせれば「調整しやすい馬」なんだとか。昨今では珍しくデビュー以来、在厩(=放牧に出さない)調整を続けていることがその証しとなろうか。
「競馬を使ってもくたびれる感じがなくて、だいたい3日以内に乗り出してますからね。エサを残すこともないし、かといって食べ過ぎることもない。常にグッドコンディションをキープできていますよ」(佐々木助手)
走る馬の必須条件とも言える適度なうるささとオンオフの切り替え、そして使ってもへこたれないタフさを兼ね備える。ここに中長距離への適性が加われば鬼に金棒なのだが、2000メートルの
京都2歳S2着好走はあるものの、基本的には1600〜1800メートルに良績が集中。さすがに2400メートルは長過ぎる? いやいや、ここで驚くべき証言が出てきた。
「最近は馬場入りで止まる癖が出てきたので坂路だけの調教が続いているのですが、ウッドで調教していた時は2周(約3600メートル)しても全然、息が乱れなかったので、むしろ長いところのほうが合う馬ってイメージがありますね」
そう語るのは普段
ビーアストニッシドの調教にまたがっている厩舎所属ジョッキーの柴田未崎。いわばこの馬を最も知る男が、潜在的なものとの注釈付きではあれど、距離適性に太鼓判を押しているのだ。
佐々木助手も「
皐月賞は手前を替えずに勝ち馬とは0秒8差。最後も止まってはいないし、着順ほど力の差はないでしょう。母系を見ても距離はこなせるはずです。ダービー、
菊花賞と距離が延びていく中でどんな競馬ができるのか、すごく興味があります」と不敵に笑みを漏らす。
ビーアストニッシドの
皐月賞2桁着順からの反転大攻勢。信じるか信じないかはあなた次第ですが、競馬記者歴4年目の私は十分あり得ると信じている。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ