「美浦へ異動になりました」。こう切り出すと、栗東の皆さんは十中八九、目を丸くして驚かれました。そりゃそうでしょう。四半世紀、栗東トレセンで仕事をしてきた白髪頭のおっさんが、突然、美浦トレセンへ異動するのはあまり前例がないこと(美浦→栗東への異動は数例ありますが)。かく言う私が一番驚きました。
あいさつ回りで、レジェンド・
武豊騎手からは「え?転厩するの?(笑)。俺はほとんど美浦に行かないからなあ。まあ、東京と中山でね」とエールを送って頂き感謝。その一方で、河内師からは「美浦?よーあんな田舎に行くなあ。俺は絶対に暮らせへんぞ(笑)」とド直球の返しをもらいました。
何せ美浦にツテがない私。その後も知り合いを頼り、片っ端から情報を収集しました。同年代の助手には「以前、美浦回りになった時に行ったことがある」と言う声をよく聞きましたが、それと同時に“美浦回り”という言葉がもはや死語になっていることを知りました。今でも
有馬記念の日など、競馬場の馬房が満杯になった際、一時的に関西馬が美浦へ入厩することはあるようですが、今ではかなりレアケースなんだとか。時代の移り変わりを感じました。
彼らによく言われた美浦のイメージは「栗東よりも田舎」「コンビニが遠い」「近くにメシ屋がない」でしたが、結構多かったのが「栗東に比べて人が暗い」という意見。ある助手は「函館や札幌へ出張した時に感じるよ。まあ、関西人が明るいのは確かやろけど、関東の人はクールというか真面目。真面目というか、真面目過ぎる」と話していました。これは文化や風土の違いでしょうが、競馬記者としては明るく話題を提供してくれるのが一番…ではあります。
そんななか、皆と同様に「そんな異動って、あるのん?」と驚いてくれた岩田康騎手から興味深い話を聞きました。最近では、
ノースブリッジの追い切りに騎乗するため、美浦へ駆け付けることもしばしば。そんな彼に「関東の人は暗い」という声について聞くと「確かに、関東は真面目な人が多いけど、相手の懐にグッと入って話をすると、ものすごいアツいものを感じる。“この馬を強くしたい”っていう勝負事に対する熱がね。だから、俺もそのアツい気持ちに応えたいと思う。俺は関東の人たち、好きやで」と教えてくれました。
現在、先週の木曜朝、ちょうど前日に初の栗東トレセンを体験したという丹内騎手(
トゥラヴェスーラの1週前追い切りに騎乗)に話を聞くと、「右も左も分からず、どこに行けばいいのか分からなかったので永島ちゃんに付いていきました(笑)。転校生みたいで、すごく新鮮でしたよ。初めて競馬場へ行く馬の気持ちが分かりました」と苦笑い。その気持ち…まさに今の私と同じです。彼にそう伝えると「僕と真逆ですね。もう、ずっとふわふわしちゃって。でも、すごく刺激になりました。美浦に慣れるまで大変でしょうけど、頑張ってください」と背中を押してもらいました。これから先、つらいことがあったら彼の笑顔に癒やされようと思います。
頭の中はまだまだ関西モードですが、勝負に対する思いは恐らく万国共通。これからは徐々に美浦の環境に慣れて、関東モードに切り替えていこうと思います。肌感では、美浦の方が取材規制が強い印象を受けますが(コ
ロナの影響が大きいそうです)、厩舎人の胸の内に秘める思いを伝えられるよう務めます。美浦の皆さん、どうぞよろしくお願い致します。関東から、ともに競馬を盛り上げていきましょう。(デイリースポーツ・松浦孝司)
提供:デイリースポーツ