アイルランドトロフィーを逃げ切り勝ちした
エイシンヒカリ(牡3、坂口則厩舎)に注目が集まっている。直線が長く逃げ馬不利とされる東京の芝2000メートルを逃げ切っただけでなく、ラストは大外のラチに向かって逸走気味に大外まで膨れた。これほどの破天荒な競馬をしながらも、2着に3馬身半も差をつけての圧勝。これほど強く、かつ個性的な馬は珍しい。
さっそく、
エイシンヒカリの馬房を訪ね、その素顔に迫ったところ…。気性が荒い馬なのかと思いきや、予想に反して物静かだった。
「ふだんは大人しいし、人懐こい。噛み付こうとするときもあるけれど、決して本気でなく遊び程度にじゃれてくるだけ」と担当の中村助手。実際に
エイシンヒカリと中村助手のやりとりを見ていたら、ちょっとした隙に
エイシンヒカリが中村助手の腕や服に顔を摺り寄せていた。時折、取材中のこちらにも顔を寄せてくるが、やはり噛むようなアクションはなく「かまって」といわんばかりに顔を寄せ、首をふるばかりだった。
「ホント、可愛いですよ」
ただし、これはオフの素顔。競馬でスイッチが一度“オン”に入ると、その勢いは止まらない。
「装鞍所までは大人しいんですが、パドックに向かう地下道へ入ると気持ちにスイッチが入る。今回もそうでしたが、ジョッキーがまたがると完全に戦闘モードに入ります」
それゆえに、競馬では毎回体力も気力も使うようで「決して、ケロッとして上がってきたことはない」とのこと。
「今回もスタートは早いし、そのまま行ってしまった。これまでは右回りの競馬ばかりだったし、前で競馬する分、隣にラチをみながらレースを進めることができましたが…」
豪快な逃げっぷりは
サイレンススズカを、あの逸走は今年のドイツダービーの直線入り口で外ラチへ向かっていった
シーザムーンを思い出させた。
「今回は直線で右手前にかえてから“ああいう”走りになりました。2頭分をまとめて再現するような競馬になってしまいましたね(苦笑)」
毛色は黒いが、顔や首筋に芦毛特有の真っ白な毛がポツポツと生えてきている。愛嬌のある黒目がちな瞳。あの激しい競馬っぷりと、普段の可愛らしい様子。とても同じ馬とは思えないほどのギャップを感じさせた。次走は未定とのことだが、今後も超個性的な
エイシンヒカリから目が離せない。(取材・写真:花岡貴子)