競走馬の福祉に対する取り組みは近年、世界的に強化されている。日本でも、打ったときの衝撃が少ないムチを導入。馬の故障を防ぐため、消炎鎮痛剤の効き目が続いている状態でレースに出走することを禁じる施策なども取り入れた。欧州を中心につくられた厳格な国際ルールにのっとったもので、薬物の影響下にある状態で出走してはならないという考えが根底にある。
だが、米国は伝統的に薬物に対する考え方が異なり、競走当日にも薬を投与できるなど規制が甘い。運動によって起こる肺出血を防ぐために利尿剤のフロセミド(日本では禁止薬物に指定)を使うのが代表例だ。抗炎症薬のフェニルブタゾンも州によっては競走当日に使用できる。効き目が残っていても出走できる州が多い。
欧州は米国に「薬物規制を厳格化すべきだ」と訴え続けてきた。米国内でも同様の意見はあったが、なかなか規制が進まなかった。利益を上げるのに、薬物が果たす役割を無視できなかったためだ。
今回のサンタアニタの件を受け、米国でも薬物規制強化の議論が進んでいる。現地報道によるとストロナックグループは内規で、フェニルブタゾンを投与した馬は効き目がなくなるとされる7日間をレース出走を控えるべき期間とした。これは国際的なルールと同水準の規制だ。
フロセミドの規制も厳しくした。同グループの競馬場に加え、ケンタッキーダービーの舞台となるチャーチルダウンズなど全米各地の主要競馬場は、重賞やリステッド競走といった格の高いレースに出走するすべての馬について、レース前24時間以内のフロセミド投与を21年から禁止する。米国でこうした流れが出てきたのは一歩前進といえる。
豪州ではABCによる報道直後の10月末、ビクトリア州の競馬を運営するレーシングビクトリアが、引退後の競走馬の福祉を拡充するため、2500万豪ドル(約19億円)を支出すると発表した。乗用馬への再調教や、引き取り手の拡大、引退馬の行方を追跡するシステムの充実などに資金を分配するという。
馬をならして乗れるようにし、レースで速さを比べる競馬は、5000年以上前から人類と馬がともに過ごしてきた歴史を伝える重要な文化の一つである。一方で命ある動物に苦痛を強いているのも確かだ。競走馬の福祉を向上させる取り組みは、今後も競馬という文化を存続させるために不可欠となる。
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