ファンに親しまれてきた競馬場内外の飲食店は、休業や大幅な売上減という厳しい現実に直面している。
無観客開催が続いている。競馬場やウインズで馬券を購入することはできないがインターネット投票の加入者が急増したこともあり、無観客下で行われたGI8レース(障害レースも含む)の売り上げは合計1031億7839万7400円で対前年比88・9%と健闘。中でも、17日のヴィクトリアマイルなど3レースは前年を上回った。その一方、休業を余儀なくされた競馬場内の各飲食店は、大きな痛手を受けている。
「GIが行われる3〜5月の売り上げは一年でもトップレベルです。最高だと月間で500万円以上。書き入れ時だけに大打撃ですね…」
声を落としたのは東京、中山の両競馬場で『鳥千』(とりせん)を営む平井寿加子さん(79)、泉さん(53)親子だ。名物のフライドチキンは競馬場主催のグルメグランプリで優勝したことがあり、大行列ができるほどの人気を集めてきた。しかし、現在は競馬場の店舗だけでなく、東京・赤坂に構える本店も先月4日から休業中。控えめに見積もっても、3カ月で1000万円以上の売り上げが消えたことになる。
仮に無観客開催が解消されて営業できることになったとしても、再開にはハードルが存在する。競馬場での人員はほぼ大学生のアルバイトでまかなってきたが、休業期間中に4年生が卒業。「いつもなら4月になると先輩が1年生を呼んでくれていたのですが、学校が始まっていないし、(サークルの)新歓行事もない。先行きが分からないですよね」と泉さんは人手不足を懸念する。
とはいえ、営業再開への思いは当然ながら強い。競馬場の店舗が休業してからは競馬ファンがほぼ毎日のように本店を訪れ、親子を励ましていったという。本店の休業を決断したのも「ここから感染者が出たら競馬場に申し訳ない」という名店の矜持があるからこそ。忠実に“ステイホーム”を守って健康に留意しながら、再びオープンする日を心待ちにしている。
「今は調理を休んでいるので、また元と同じ調子でできるのか不安はあります。でも、私が元気でさえいれば大丈夫。以前と変わりない、おいしい鳥をお届けしたいですね。やる気満々ですよ」
優しい笑みを浮かべながら、泉さんは決意を口にした。ファンの大歓声と黄金色に輝くフライドチキンが競馬場に戻る日は、必ずやってくる。
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