「先生には本当に感謝の気持ちしかありません」と語る武藤雅騎手
現在、同期トップの勝利数を誇る武藤騎手。しかし、目を見張るのはその数字だけではありません。既に200鞍を超える騎乗数、そして50厩舎という騎乗厩舎数も同期トップなんです。新人騎手として恵まれた環境が整っているのは、師匠である水野調教師の育成方針の賜物。元騎手でもある師匠から、武藤騎手はどんなことを学んでいるのでしょうか。
(取材・文/森カオル)
父の厩舎でも早く勝ちたいです
──ドウカンヤマで7勝目を挙げたレースには、武藤騎手の手綱で勝った自厩舎のカネトシユキミも出走していましたよね。これは、先生が他厩舎の騎乗を優先してくださったんですか?
武藤 そうですね。ドウカンヤマが4着だったときに、次も乗せていただけることになっていたんです。ユキミも同じレースを使うことはわかっていたんですけど、水野先生が「ドウカンヤマに乗りなさい」と、譲ってくださった感じです。
──その結果、勝ったわけですから、先生に感謝ですね。
武藤 はい。本当にもう、いつも僕のことを考えてくださっていて。他厩舎の馬に乗っているときも、レース後は一緒にパトロールビデオを見て、いろいろアドバイスをしてくれるんです。元ジョッキーですから、同じ目線で解説してくださるので、毎レース毎レース、勉強になることばかりです。普段から厳しい先生ですが、厳しくしてくださるということは、それだけ僕のことを見てくださっているということだと思うので、先生には本当に感謝の気持ちしかありません。
──師匠の厳しさは愛情の裏返しですからね。ちなみに、お父さま(武藤善則師)からも、いろいろとアドバイスがあるのでは?
武藤 もちろん、武藤厩舎の馬に乗ったときは、指示やアドバイスなどがありますが、基本的には水野先生に一任している感じです。
──なるほど。「預けたからには、余計な口出しはしない」と決めていらっしゃるのかもしれませんね。
武藤 はい、そうだと思います。
──自厩舎と武藤厩舎以外にも、ものすごく多くの厩舎に騎乗されていますよね。ちょっと調べてみたんですが、これまで(7月23日終了時点)の騎乗厩舎数は50厩舎。同期ではトップの数字でした。
武藤 本当ですか? それはうれしいですね。実習中の調教のときから自厩舎は1頭で、あとの時間は他の厩舎を手伝わせてもらっていたんです。そうやっていくなかで、顔を覚えてもらえたことが一番大きいかもしれません。
──「自厩舎の調教は1頭でいい」というのは、水野先生が決められたことなんですか?
武藤 そうです。最初の1カ月だけは自厩舎でしっかり学んで、2カ月目からは「自分で厩舎を回って、手伝わせてくれる厩舎を探しなさい」と。そこからは野放しです(笑)。
──野放しというか(笑)、「かわいい子には旅をさせろ」というスタンスなんですね。じゃあ、面識がない先生のところにも飛び込みで行ったりしたんですか?
武藤 はい。「武藤雅です。調教を手伝わせてください!」という感じで行きました。最初はもちろん、技術もない実習生が本当に手伝わせてもらえるんだろうか…と不安でいっぱいでしたが、本当にみなさん快く受け入れてくださって。エージェントの方にはもちろんお世話になっていますが、そうやって自分で顔を売ってきたところもあります。
──そうなんですね、頼もしい! それにしても、いい先生ですね。最初から先を見据えて考えてくださっているというか。
武藤 本当にそうです。先生がいつも自分のことを考えてくださっていることはものすごく感じるので、少しでも期待に応えていきたいという気持ちが強いです。
──厩舎回りなど、デビュー以降も変わらずに続けてらっしゃるんですか?
武藤 そうですね。実習生の頃から固定で手伝わせてもらっている厩舎もいくつかあるのですが、それ以外の空いた時間は、手伝わせてもらえそうな厩舎を自分で探しています。
──そういった地道な努力が、いつか大きな実を結ぶかもしれませんね。あとは、そろそろお父さまの厩舎で勝ちたいという気持ちが強くなってきているのでは?
武藤 そうなんです。本当にたくさん乗せてもらっているので、早く結果を出さないと…。こうやって周りのみなさんにも言われますし、何より自分自身、父の厩舎で早く勝ちたいという気持ちがどんどん強くなってきましたね。
自分自身、父の厩舎で早く勝ちたいという気持ちがどんどん強くなってきましたね
(次回へつづく)