▲33年間の騎手人生を“折れ線グラフ”で表していただきます!
障害通算2000回騎乗を区切りに騎手を引退した林満明騎手。今週は、ご自身の騎手人生のアップダウンを“折れ線グラフ”で表していただきます! 33年間にも及ぶ長い長い騎手生活。さぞかし山あり谷ありかと思いきや、そのグラフにはポジティブな林騎手らしいある特徴がありました。キーマンとなった人物や、アップトゥデイトへの思いなど、今週も満載でお届けします。 (取材:東奈緒美)
騎手人生のキーマンはノースヒルズの前田オーナー
東 33年間の騎手人生は山あり谷ありだったと思いますが、林さんご自身にその33年間のアップダウンを折れ線グラフにしていただきたいと思っておりまして。
林 折れ線グラフかぁ。(悩みながらもマジックを手に取り……出来上がったのがこちら↓↓)
▲この折れ線グラフにはポジティブな林騎手らしいある特徴が!
林 2年目の夏以降にね、障害のいい馬を頼まれるようになって。その流れで秋に重賞を勝たせてもらってね(87年京都大障害・秋 カルストンファスト)。3年目には、障害で10勝できたのかな。
東 その年(88年)にJRA賞の優秀障害騎手を受賞されていますね。
林 そうですね。でもそこで交通違反で騎乗停止を喰らって…(苦笑)。
東 そんなこともあったんですね。そこがこのグラフでいうガクッと下がっているところですか?
林 そうです。でも、グラフでV字回復している通り、その後もなぜか乗せてもらえてね。数を乗せてもらえたのは、やっぱり障害に乗っていたおかげ。平地にこだわっていたら、とっくに潰れとったと思う。あとは、デビュー当時にノースヒルズの社長(前田幸冶氏)に出会えたことが大きいね。当時は社長もまだ35歳くらいで、初めて馬を持った頃で。その初めての馬が、僕が所属していた吉田三郎厩舎に入ってきた。それ以来のお付き合いで、結婚式の仲人もしてもらったし、アップの生産もノースヒルズだからね。
東 なるほど。林さんの騎手人生のキーマンともいえる方ですね。
林 そうですね。当時からオーラがあって、絶対に後ろを見ない人だった。「どうだ、この馬は走るか?」と聞かれて、「え〜っと…」って答えが詰まろうものなら、「走るって言え!」って怒られてね(笑)。かといって、負けても何も言わないし、本当にいい馬主さんです。
東 ちなみに、デビューした当時から、障害を中心に乗っていこうと思っていらしたんですか?
林 いや、デビューした年は平地が中心(152鞍騎乗)で、障害はそれほど乗っていなかったんじゃないかな(デビュー年の障害騎乗数は20鞍)。当時はテキが進上金をすべて管理してくれていて、僕が自由に使えるのは騎乗料だけだったんですよ。でも、僕も20歳そこそこだったから、もう遊びたくて遊びたくて(笑)。で、騎乗料欲しさに障害に乗るようになって。当時は平地の5倍近くの騎乗料をもらえたからね。
東 そうだったんですね。遊びたい一心で障害に乗り始めたと(笑)。
林 そうそう(笑)。きっかけはそんな感じやった。
東 それが33年間も続いて、30年目に出会ったのがアップトゥデイト。緩やかな右肩上がりから、ここで一気にグラフが上がっていますね。
林 やっぱり僕にとっては特別な馬だったから。それまでにもGIは乗ってきたけど、アップと一緒に見たGIの世界は全然違う世界だった。
▲アップトゥデイトとのコンビ初GI勝利となった2015年の中山GJ (撮影:下野雄規)
東 そんなアップと挑んだ最後のGI、中山グランドジャンプはまたしても2着。もう一度アップとGIを勝ちたいとおっしゃっていただけに、悔しい結果になりましたね。
林 いや、あれはもう完敗だから。あそこまで負ければ、むしろ清々しいわ。それこそ暮れの大障害(半馬身差2着)は「何とかなったんじゃないか…」とか考えてしまうけど、この前は大差負け(2秒4差)だからね。けっこういいペースで行けたし、アップ自身もレコードで走ってあれだから、やっぱりオジュウはケタが違うね。
東 アップには最後まで林さんに乗ってほしいというファンの声もありますが…。
林 いやぁ、もういいです(苦笑)。もうやり尽くした。
東 次に誰が乗るのかも話題になっていますね。
林 そうですね。白浜くんの予定です。僕がケガで休んでいるあいだに一度乗ってるんでね(2016年3月12日・阪神スプリングJ2着)。
東 そうなんですね。みんな乗りたがっているんじゃないですか?
林 たぶんみんな乗りたいと思っているだろうね。なにしろアップは跳びに安定感があるし、乗りやすいから。
東 こうやってグラフを見ると、大半の時期が中心線より上にあるというのは、本当に素晴らしいですよね。もっと山あり谷ありのグラフになるのかなぁと思っていました。
▲「大半の時期が中心線より上にあるというのは素晴らしいですよね」
林 僕はあまり悩まないほうだからね(笑)。
東 ここ数年は、ワクワクする気持ちより恐怖心が上回ってしまったというお話でしたが、それまでは毎週繰り返し訪れる恐怖心にずっと打ち勝ってこられたんですものね。
林 うん、ゲートさえ開いてしまえば大丈夫だったから。前はね、落ちても「コノヤロー!」と思える勢いがあったけど、最近はそう思えなくなっていたからね。
東 その「コノヤロー!」は何に対して?
林 それはもう、下手くそな自分に対して。まぁ少しは馬に対しても「ちゃんと跳べよ!」っていう気持ちはあったけど。それは八つ当たりみたいなもんやね(苦笑)。
東 いろいろな経験を積めば積むほど、本当の怖さがわかってくるものなんですね。
林 落ちれば落ちるほどね。その点、熊(熊沢重文騎手)はバカやな(笑)。アイツ、まだまだやる気満々だもんね(笑)。いつもふたりで話してたんですよ、「俺たちはバカやな」って。
(文中敬称略、次回へつづく)