常軌を逸するタイムで新馬戦を制したリバティアイランド(撮影:下野雄規)
今年の秋華賞は、何を差し置いてもリバティアイランドの存在から語り始めるべきでしょう。すでにGI・3勝にしてしかも三冠王手のリバティアイランド。私の専攻分野はラップタイム分析ですので、今回は同馬の能力をラップ面から解説していきたいと思います。
■リバティアイランドの新馬戦ラップタイム
13.2-12.2-12.8-13.1-12.5-10.9-10.2-10.9
まず新馬戦。これがいきなり常軌を逸するラップタイムでした。ラスト3ハロンが全部10秒台というのはJRA史上初のことだと思われます。ラスト2ハロン連続10秒台としても、1986年以降のJRA 約12万5000レースの中で10例程度しかないという状態。イクイノックスもオルフェーヴルもディープインパクトでさえも達したことのない領域の馬が、ある日突然現れたということです。
2022年7月30日のレース当日はちょっと信じられず、レース映像を見ながら何度もストップウォッチで計りなおしたりもしてみました。ラスト3ハロン全部10秒台どころか、それに近いような数値さえ、今まで見たことがなかったからです。これは驚くと言うよりも狼狽でしたね。どんな条件でもこのタイムが出せるという訳ではないのですが、この馬のポテンシャルを示す要素とは言えるでしょう。
そして迎えた前走のオークス。ここでもリバティアイランドは規格外のレースをしてみせます。中団追走から直線に入ったところ、馬ナリで2番手までポジションアップし、そこから追い出されるとアッという間に2馬身、3馬身。そのまま差を広げ続け、最終的には6馬身差を付けてのゴールでした。
オークスは長距離の割に着差が付きにくいレースで、2着との着差・6馬身は1980年以降の近代競馬では最大と言えるものでしょう。それに次ぐのが2012年ジェンティルドンナの5馬身差であり、あとは大抵1馬身以内。2018年アーモンドアイにしても、2着との差は2馬身程度でした。
■2023年オークス・ラップタイム(勝ち馬リバティアイランド)
12.3-10.5-12.3-12.6-12.3-12.0-12.0-12.0-12.0-12.0-11.6-11.5
そしてこのラップタイムを見れば、2着以下がまったく食い下がれなかった理由も分かるはず。ラスト1ハロンが11秒5、これが記録の残っている1986年以降では最速の記録となっています。さらに言うとラスト2ハロンにかけての11秒6→11秒5と、馬が一番苦しくなる場面で更に加速していくという、いわゆる加速ラップ。過去三十余年のオークス勝ち馬を見ても、これが出来た馬は他に1頭たりとも存在しません。
このように、アーモンドアイやジェンティルドンナといった歴代の最強牝馬たちと比較してもラップ的には破格。リバティアイランドが常識はずれ、規格外の馬であることは間違いありません。単純にGI・3勝の実績だけを見ても、今さらマグレ勝ちが続いただけだと考える人はほとんどいないものと思われます。
ただ、必ずしも強い馬が勝つとは限らないのが競馬の面白いところであり、恐ろしいところ。過去の秋華賞1番人気を見ると、適性不向きで敗れたスーパーホースが数多く存在するGIであり、単純に“強いから勝つ”ではなく、適性考察も疎かにはできないレースでもあります。
ウマい馬券では、ここから更に踏み込んで秋華賞を解析していきます。印の列挙ではなく『着眼点の提案』と『面倒な集計の代行』を職責と掲げる、岡村信将の最終結論にぜひご注目ください。
■プロフィール
岡村信将(おかむらのぶゆき)
山口県出身、フリーランス競馬ライター。関東サンケイスポーツに1997年から週末予想を連載中。自身も1994年以降ほぼすべての重賞予想をネット上に掲載している。1995年、サンデーサイレンス産駒の活躍を受け、スローペースからの瞬発力という概念を提唱。そこからラップタイムの解析を開始し、『ラップギア』と『瞬発指数』を構築し、発表。2008年、単行本『タイム理論の新革命・ラップギア』の発刊に至る。能力と適性の数値化、できるだけ分かりやすい形での表現を現在も模索している。
1995年以降、ラップタイムの増減に着目。1998年、それを基準とした指数を作成し(瞬発指数)、さらにラップタイムから適性を判断(ラップギア)、過去概念を一蹴する形式の競馬理論に発展した。『ラップギア』は全体時計を一切無視し、誰にも注目されなかった上がり3ハロンの“ラップの増減”のみに注目。▼7や△2などの簡単な記号を用い、すべての馬とコースを「瞬発型」「平坦型」「消耗型」の3タイプに分類することから始まる。瞬発型のコースでは瞬発型の馬が有利であり、平坦型のコースでは平坦型に有利な流れとなりやすい。シンプルかつ有用な馬券術である。