障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、一昨年の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く連載コラム。
小学校の運動会に行くと、久しぶりに会った厩舎スタッフや奥様方から「生きててよかった!」と夫へ声を掛けてもらうも、生活の不安から由紀子さんにはモヤモヤが残ります。
その後、夫が動画で見せてくれた乗馬の姿に衰えを疑い、問いかけると口論に。そこで翌日、福永祐一調教師とのミーティングで乗馬技術についても相談し説明を受けると…。
「やっぱり怪我の影響で騎乗技術が落ちたんじゃない?」
鴨川から滋賀に帰った翌日は、息子の小学校の運動会でした。トレセンで働くお父さんを持つお子さんが各学年に5名弱程度はいる学校です。
グラウンドに行くと、久しぶりに会う厩舎スタッフの方や奥様方が次々とやってきて、「久しぶり!」「生きててよかった!」と夫に声を掛けてくれていました。
その言葉にうなずく夫の横で、私、鬼嫁はというと、「生きているだけでは生活できない…」と少しモヤモヤ。私がみなさんの立場であれば、間違いなく「生きていてよかった! 命があるだけでいいやん!」と思っていたはずですし、その言葉に悪気がないことも重々わかっています。ですが、これからどう生きていけばいいのか模索中の私には、どうしてもモヤモヤしてしまう言葉でもありました。
ある調教助手さんが「生きてるだけでよかった!」と言った奥様に対し、「これからが大変やで。どうやって生きていくのかなんやで」と返していました。そして私には、「坪ちゃん(※由紀子さんの旧姓は坪田)、大変やけど、やるしかないからな。頑張りや! (福永)祐一がさぁ、『坪ちゃんはしっかりしてるから大丈夫!』って言うてた。なんかあったらいつでも言うてや」と、心強い言葉を掛けてくださいました。
この調教助手さんは、祐一さんが絶対的な信頼を寄せている方であり、誰もが認める馬乗りの技術の持ち主。遠い昔、私が初めて競馬観戦をした日の夜に、祐一さんを囲んで食事をご一緒した記憶があるほど古くからお世話になっている方でもあります。
私の気持ちや状況をしっかりと理解してくださっている方がいる…。そう思えただけで、なんだか心が元気になっていくのを感じました。また、私がこの世で一番尊敬している祐一さんが、「坪ちゃんなら大丈夫!」と言ってくださっていたと聞き、さらに元気倍増です(笑)。
祐一さんが大丈夫と言うなら大丈夫。たとえ大丈夫じゃなかったとしても、ふたりの子供たちのために“大丈夫”にしていかなくちゃいけない。祐一さんだってそうやって日々を過ごし、トップアスリートに上り詰めたのだから…。
6月7日、乗馬苑から帰ってきた夫が、ある動画を見せてくれました。画面を覗くと、そこにはなんとひとりで馬に乗っている夫の姿が!
■乗馬苑で馬に乗った雄造騎手(提供:白浜由紀子)
乗馬は曳き馬から始めると思っていたのでびっくりしたのですが、パッと見た感じは普通には乗れているようでした。とはいえ、私は乗馬のド素人。乗れている、乗れていないの判断はできません。
夫にこの日のことを詳しく聞くと、顔なじみの持ち乗り助手さんが怪我をされて、リハビリのために乗馬苑にこられていたそうです。で、「せっかくなので一緒に乗った。でも、指示が通らなくて、とてもズブい馬だった」と言い、上手く馬を動かせなかった自分に少し落ち込み、いっぽうで久しぶりに馬に乗れたことがうれしい様子でもありました。
この話を聞いて私が感じたのは、「夫は自分の騎乗技術が下がったことに気が付いていないのか、あるいは現実逃避をしているのではないか」ということ。そこで私は、「やっぱり怪我の影響で騎乗技術が落ちたんじゃない?」とあえて聞いてみることに。