障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、一昨年の夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く連載コラム。
雄造騎手が子どもたちのために将来を見据えていることを聞き、一切の声掛けを控える決断をした由紀子さん。しかし、自主リハビリは進まず部屋に籠る生活が続きます。
互いの気持ちがすれ違う中、夫の態度は変わらず、ついには激高を繰り返す事態に。復帰のために試行錯誤してきた鬼嫁が、「さすがに無力感と虚しさを感じた」出来事とは──。
「こんなものいらない! リハビリもしなくても大丈夫だから!」
夫に私から声掛けをしないことに決めた初日。
夫はこれまでと変わらず、療法士の先生によるリハビリの時間以外は自室に籠っていました。まだ初日──明日以降は何か変わるかもしれないと期待し、私は状況が変わるのを待ちました。
2日、3日、4日、5日…。何日経っても自室に籠ったままの夫。しばらく見守っていたのですが、好転しない事態に耐えかねた私は、10日ほど経った頃、トイレに行くために部屋から出てきた夫に、「少しずつでもいいと思う。自主リハビリに取り組んでみたら?」と、できるだけ優しく、その一言だけ声を掛けてみました。めちゃくちゃイライラする気持ちを抑えて…(笑)。
すると夫は、「うるさい! 治るから!」と激高し、扉をピシャリと閉めて自室に戻っていってしまいました。「治る!」と言い切った夫を見て、現状理解がまったくできていない様子にうんざりしました。
この頃の夫は骨折などのケガはすでに治癒し、残っているのは脳を損傷したことによる後遺症。ケガであれば、医師の治療を受けることである程度までは自然に治癒しますが、後遺症となると、医師や療法士の力を借りて自分の力で克服しなければなりません。
そんななか、夫は現状理解ができていないため、自主リハビリの重要性を理解していない。そう思った私は、自主リハビリをしなければならないということを理解してもらうため、簡単なプリントを作り、聴覚からだけではなく視覚情報からも訴えかけてみることにしました。