単勝オッズ4.9倍(2番人気)のクイーンズウォークが優勝(c)netkeiba
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
8番人気以下の馬がほとんど馬券に絡んでいない
AIマスターM(以下、M) 先週はローズSが行われ、単勝オッズ4.9倍(2番人気)のクイーンズウォークが優勝を果たしました。
伊吹 人馬ともにお見事と言うほかありませんね。五分のスタートから流れに乗り、中団のインコースで1コーナーへ。そこから2コーナーにかけて縦長の隊列となり、周りを囲む馬が少なくなったこともあってか、向正面に入ったところで早くも馬群の外めに持ち出しています。大逃げの形となったセキトバイースト(3着)にはやや離されていたものの、他の先行勢についていく形で3コーナーから4コーナーを通過し、大外に進路を取りながらゴール前の直線へ。
残り200m地点のあたりで離れた外から前を捕らえにかかり、逃げ粘るセキトバイースト、内からしぶとく伸びたチェレスタ(2着)らを決勝線の手前であっさりかわし切りました。4コーナーを5番手以内、すなわちクイーンズウォークより前のポジションで通過した5頭がいずれも7着以内に残ったわけですから、どちらかと言えば先行有利の、この馬にとっては難しい流れだったはず。休養を挟んでより逞しさが増したクイーンズウォーク自身のポテンシャルと、川田将雅騎手の的確なエスコートがしっかり噛み合ったからこそ、このような展開を力で捻じ伏せることができたのでしょう。
M クイーンズウォークは今年2月のクイーンC以来となる自身2度目の重賞制覇。3走前の桜花賞は勝ち馬と0.6秒差の8着、2走前のオークスも勝ち馬と0.4秒差の4着どまりでしたが、秋華賞ではかなりの注目を集めることになりそうです。
伊吹 半兄に2020年の朝日杯FSを制したグレナディアガーズがいるうえ、母のウェイヴェルアベニューも現役時代にBCフィリー&メアスプリントを勝っている名牝。デビュー前からそれなりに注目を集めていましたし、私自身も2023-2024シーズンのPOGにおける注目馬の一頭と見ていました。今春のビッグタイトルには手が届かなかったものの、やはり潜在能力の高さは世代屈指。無事に本番へ駒を進めてきたら、無理には逆らえません。これまでの重賞2勝がいずれも左回りのレースだったとはいえ、どんな競馬にも対応できる柔軟性の高さは大きな強み。京都芝2000m内へのコース替わりは、むしろプラスに働く可能性すらあると思います。
M ちなみに、このローズSで3着となったセキトバイーストは、前回の当コラムでAiエスケープが推奨していた馬。単勝オッズ51.6倍(11番人気)の低評価を覆し、3連単19万6350円の好配当決着を演出しました。
伊吹 素晴らしいですね。正直なところレースの傾向からは強調しづらい一頭だったのですが、そう見ていた私ですら「さすがにこのオッズは過小評価され過ぎだろう……」と思っていましたし、Aiエスケープの立場からしたら絶好の狙い目だったのでしょう。今春のGI戦線で、ヴィクトリアマイルのテンハッピーローズをはじめとする当コラムの注目馬が次々と激走を果たしたのは記憶に新しいところ。今秋のGI戦線を前に再び調子を上げてきたようですから、今後も目が離せません。
M 今週の日曜中山メインレースは、大舞台を目指す実績馬と新興勢力が激突する注目の古馬GII、オールカマー。昨年は単勝オッズ5.6倍(4番人気)のローシャムパークが優勝を果たしました。ちなみに、その2023年は単勝オッズ2.5倍(1番人気)のタイトルホルダーが2着に、単勝オッズ19.5倍(7番人気)のゼッフィーロが3着に食い込んで、3連単2万4340円の決着となっています。
伊吹 2022年に3連単24万6180円の高額配当が飛び出しているものの、2015年から2021年までの計7回における3連単の配当は、平均値が2万1670円、中央値が2万1480円。ちょうど昨年くらいの、手頃な配当で決着する年が多いレースです。
M 過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬はあまり上位に食い込めていませんね。
伊吹 より詳しく見ていくと、単勝7番人気の馬は2014年以降[0-1-3-6](3着内率40.0%)と健闘していたのですが、単勝8番人気以下の馬は2014年以降[0-0-1-66](3着内率0.0%)。3着以内となったのは2014年3着のクリールカイザー(単勝12番人気)のみでした。仮に魅力的な伏兵が見つかったとしても、上位人気グループの各馬を安易に軽視してしまわないよう心掛けるべきでしょう。
M そんなオールカマーでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、サヴォーナです。
伊吹 話の流れ的にもちょうど良い塩梅の馬を挙げてきましたね。人気の中心ということはないかもしれませんが、ある程度の支持は集まるはず。
M サヴォーナは4歳馬。重賞未勝利とはいえ、昨年の神戸新聞杯や今年の日経新春杯で2着に食い込んでいます。前走の函館記念で単勝1番人気の支持を裏切ってしまったものの、今回こそが狙い時と考えている方はそれなりに多いのではないでしょうか。
伊吹 逆に、オッズ次第では軽視しようと考えている方もいるはず。中山のレースにこれといった実績がない馬ですし、見方によって評価が割れる一頭かもしれません。好調なAiエスケープが中心視していることを踏まえたうえで、私はオールカマーの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていこうと思います。
M 真っ先にチェックしておくべきポイントはどのあたりですか?
伊吹 格の高いレースを主戦場としてきたか否かで明暗が分かれそう。2018年以降の3着以内馬18頭は、いずれも前年か同年にJRA、かつ2000m超のGI・GIIで7着以内となった経験がある馬でした。
M オープン入りを果たしたばかりの馬はもちろん、GIIIやオープン特別を主戦場としてきた馬も強調できませんね。
伊吹 おっしゃる通り。今年はこの条件に引っ掛かっている馬がわりと多いので、しっかりチェックしておきましょう。
M 先程も触れた通り、サヴォーナは昨年の神戸新聞杯や今年の日経新春杯で連対を果たした実績がある馬。このあたりは強調材料のひとつと言えます。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価したいところ。同じく2018年以降の3着以内馬18頭中16頭は、前走の着順が7着以内でした。
M 大敗直後の馬は疑ってかかった方が良さそうですね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が8着以下・競走中止、かつ“同年の、JRAの、GI・GIIのレース”において1着となった経験がない馬は、2018年以降[0-0-0-26](3着内率0.0%)とまったく上位に食い込めていません。
M サヴォーナは前走の着順が4着。人気を裏切ってしまったとはいえ、大きく崩れなかった点は高く評価して良いのではないでしょうか。
伊吹 さらに、前走が国内のレースだった2018年以降の3着以内馬15頭中13頭は、前走の馬体重が490kg未満でした。
M 大型馬は過信禁物、と。
伊吹 付け加えておくと、前走のコースが国内、かつ前走の馬体重が490kg以上、かつ生産者がノーザンファーム以外の馬は2018年以降[0-0-0-17](3着内率0.0%)。ノーザンファーム生産馬でない限り、馬格のある馬は扱いに注意するべきだと思います。
M サヴォーナは前走の馬体重が530kgで、生産者が高昭牧場。残念ながら、この条件はクリアしていません。
伊吹 まぁ、逆に言うと不安要素はこれくらいなんですよね。コース適性云々はともかく、今回のメンバー構成なら実績上位と言える存在。もともと私も有力馬の一頭だと考えていました。Aiエスケープが狙い目と見ているのであれば、少なくとも無理に嫌う必要はなさそう。実際のオッズも踏まえたうえで、最終的なシルシを再度検討しようと思います。