障害ジョッキーの白浜雄造騎手の奥様が、一昨年の夏の落馬から復帰を目指して奮闘する夫と家族のリアルな姿を描く連載コラム。
脳の損傷から回復することの難しさを日々感じる鬼嫁。リハビリのやる気を高めるため、福永祐一調教師からアドバイスがあった「JRAの競馬場に連れて行く」作戦を決行することにしました。
それに先立ち、かかりつけの中山先生に夫の現状と今回の作戦を相談。福永調教師が競馬場にいくことを薦めた“理由”と名医の回答とは──。
教えられたのは元ジョッキーならではのアプローチ
「トロッコに乗りたい」という夫の希望で、友人の清誠さん夫婦と嵐山へ出掛けた日。この日の夫は珍しく楽しそうに過ごしていました。
トロッコ乗り場に向かうため、私たちは電車に乗っていたのですが、私と子供たちは清誠さんと4人でおしゃべりに夢中で、みっちゃんは顧客からメールが届いたようで、仕事をしていました。
すると夫がひと言、「ここで降りるんじゃないの?」
おしゃべりと仕事に夢中になっていた夫以外の5人は、乗り換え駅に到着したことに気が付かなかったのです。夫が気付いてくれたおかげで無事に降りることができたのですが、危うくトロッコに乗り損ねるところでした。
些細なエピソードではありますが、夫は降車駅名を覚え、そこに到着したことにちゃんと気付くことができた。一方、怒りを抑えたり、息子が電車好きを卒業したことには気付けない。私の目には、できることとできないことに一貫性がないように見え、脳の損傷は本当に難しいなと感じた出来事でした。
私は夫をやる気にさせるため、日々あの手この手で夫にアプローチを続けていました。その作戦のひとつが、レース開催日に夫をJRAの競馬場に連れて行くこと。これは、夫が退院した直後に(福永)祐一さんから受けたアドバイスのひとつでもあります。