上がり3Fは驚異の32秒5 ドウデュースの“ピッチ走法”を補完する父ハーツクライの血
血統で振り返る天皇賞(秋)
【Pick Up】ドウデュース:1着
ハーツクライ産駒が初めてGIを勝ったのは2013年の天皇賞(秋)。ジャスタウェイがジェンティルドンナに4馬身差をつけて圧勝しました。同産駒の天皇賞(秋)制覇はそれ以来となります。
母ダストアンドダイヤモンズは現役時代、ダート6.5ハロンの米G2を勝ち、BCフィリー&メアスプリント(米G1・ダート7ハロン)で2着となりました。ハーツクライ自身はスタミナに恵まれているので、母が短距離タイプ、という配合パターンは成功しています。
母の父ヴィンディケーションは、シアトルスルーが種牡馬生活の晩年に送り出した大物で、BCジュヴェナイル(米G1・ダート9ハロン)を含め4戦全勝。米2歳牡馬チャンピオンに選出されました。8歳で早世したこともあり種牡馬としては大きな実績を残せませんでしたが、母の父としてはエグザジェレイター(プリークネスS、ハスケル招待S、サンタアニタダービー)、エリートパワー(BCスプリント2回、アルレッドG.ヴァンダービルトH)といった大物を出し、非凡な資質を証明しています。
母方にシアトルスルーを持つハーツクライ産駒は好成績を挙げており、他にスワーヴリチャード、アドマイヤラクティ、ヨシダ、カレンミロティック、ダノンベルーガ、ハーパー、シュンドルボンなどが出ています。スタミナ型の種牡馬なので基本的にスピードに秀でたアメリカ血統とは相性がよく、たとえばミスタープロスペクター、ファピアノ、アンブライドルド、マキャヴェリアン、インリアリティ、ダンジグ、ストームキャットといった血と好相性を示しています。
ドウデュースのフットワークは回転の速いピッチ走法。サンデー系らしいストライド走法とは異質なので、おそらく母方の影響を受けているのでしょう。ピッチ走法は、基本的には小回りコースに向いており、長くいい脚を要求される直線の長いコースに向いているとはいえません。今回のドウデュースは、上がり3ハロン32秒5で突き抜けました。この爆発的な加速力はピッチ走法ならではという気がします。ピッチ走法の馬は総じて短めの距離を得意とするのですが、それを補っているのが父ハーツクライのスタミナなのでしょう。
溜めに溜めて、ピッチ走法の馬が勝てる極限の上がり勝負に持ち込んだ武豊騎手の好騎乗だと思います。
血統で振り返るアルテミスS
【Pick Up】ブラウンラチェット:1着
先日、大井競馬場でジャパンダートクラシック(JpnI・ダ2000m)を勝ったフォーエバーヤング(全日本2歳優駿、UAEダービー、サウジダービー、JBC2歳優駿)の妹です。父がリアルスティールからキズナに替わりました。
リアルスティールとキズナは、いずれも「ディープインパクト×ストームキャット」という組み合わせなので、フォーエバーヤングとブラウンラチェットは血統構成の8分の7まで同一です。
父キズナは3歳世代に続いて2歳世代も好調で、今回のレースでは1-3着を占めました。2歳種牡馬ランキングではエピファネイアを突き放して首位の座を固めています。
母フォエヴァーダーリングはアメリカ産馬で、サンタイネスS(米G2・ダ6.5ハロン)の勝ち馬。超一流馬ではありませんでしたが、ヘヴンリーラヴ(米G1アルシバイアディーズS)の半姉にあたり、2代母ダーリングマイダーリングはゼンノロブロイの半姉にあたる良血。繁殖牝馬として非凡な才能を発揮しています。ちなみにヘヴンリーラヴは、ケンタッキーダービーでフォーエバーヤングに競り勝って2着となったシエラレオーネ(米G1ブルーグラスS)の母です。
母の父コングラッツは、ダービー馬ダノンデサイルの母の父でもあり、エーピーインディ系のなかでは芝適性が高めの血です。「キズナ×コングラッツ」の組み合わせは本馬のほかにもう1頭、ダートで3勝を挙げている牡3歳のモンブランミノルがいます。キズナ産駒の牝馬は牡馬に比べて芝向きに出る傾向があるので、牝馬のブラウンラチェットは芝にうまく適応しています。
知っておきたい! 血統表でよく見る名馬
【ゴールドアリュール】
芝でも日本ダービー5着となった実力馬。ダートに転向後はジャパンダートダービー、ダービーグランプリ、東京大賞典、フェブラリーSと4つのGI級競走を制覇し、敵なしの状態でした。
父サンデーサイレンスは芝向きの種牡馬で、芝とダートの勝利数の割合は約8対2。息子のゴールドアリュールはほぼ真逆の1対9。わが国を代表するパワー型種牡馬となりました。
2010年代は、キングカメハメハとダート路線を牽引し、全日本ダート種牡馬ランキング(中央ダート+地方)では、2011年から6年連続でこの2頭が1、2位を占めました。
エスポワールシチー、スマートファルコン、コパノリッキー、ゴールドドリーム、クリソベリルといった代表産駒はビッグレースを勝ちまくり、とくに東京ダ1600mで重賞を9勝。この数字は歴代トップで、なおかつ2位の3倍という突出した成績です。サンデー系だけあって長い直線をしっかり伸びきる馬が目につき、同じく直線が長い大井コース(東京大賞典、帝王賞、ジャパンダートダービーなど)での活躍ぶりも目立ちました。
母の父としてはオメガパフューム、ラムジェットなどが出ています。
血統に関する疑問にズバリ回答!
「アルゼンチン血統はなぜ近年活躍馬を多数輩出する? 」
日本と同じく芝・ダート双方で競馬が行われ、芝は高速決着になりやすい硬めの馬場で行われます。アルゼンチンを代表するサンイシドロ競馬場の芝1600mのレコードタイムは1分31秒0。芝2400mは2分21秒98。日本とほとんど変わりません。
ちょうど地球の真裏に位置し、温暖湿潤で四季があるという日本と似た気候なので、馬場も似ており、速いタイムに対応可能な血統が発展しています。そうした点が日本競馬にフィットする大きな理由でしょう。
また、トップクラスの牝馬は、セリを通すことなくエージェントを通じて日本の牧場に入ってくることが多いのですが、たとえば同じG1牝馬を比較すると、その価格は北米やヨーロッパの牝馬よりも総じてリーズナブルです。買い求めやすいため、結果的に多くの牝馬が流入することにつながっています。この点も見逃せません。
サンデーサイレンスの2代母の父モンパルナスはアルゼンチン産馬。サンデーが伝える芝適性は、スタミナ型の芝血統であるモンパルナスに負う部分が大きいと思われます。
アルゼンチン共和国杯の勝ち馬のなかでアルゼンチン血統を抱えたものは、サンデーサイレンスの子孫を除けば、トースト(1964年)、ゴーゴーゼット(1995年)、サンライズジェガー(2002年)などがいます。