アパパネの子は難しい――。そんなイメージを勝手に持っていた。それは長兄の
モクレレ、次兄の
ジナンボーのレースぶりから推察したものだが、3番子の
ラインベックを間近に見て、そして話を耳にするにつけ、その考えに間違いはなかったと感じている。
「何をするにも後ろ向きな性格」と大江助手。これは彼に限った印象ではなく、担当の前川助手も同様。ゆえにセンスのいい競馬で新馬戦を勝った時、それまでに聞いていた話とのギャップに驚いたものだった。
「後ろ向きな性格なんですけど、それが走りに影響していない。何も考えずに強い追い切りを重ねたら、走ることをやめるようになるかもしれないし、逆にガツンとかかるようになってしまうかもしれませんけどね。普段のこの馬がしていることを競馬で出すようになったら、それこそ大変ですから」(大江助手)
ディープインパクト×
アパパネという3冠馬同士の配合は現在の日本では最高峰と思える。しかし、これほどの血統馬であっても、勝手に能力が開花していくわけではなく、むしろ能力を阻害しない、ネガティブな要素をできるだけ出させない「キュウ舎力」が必要――。そう感じたので、次兄
ジナンボーの
ジューンSのVTRを大江助手に見てもらった。2角でハミを取ってしまったため、逃げる選択をせざるを得なかったレースだ。
「これ、ジョッキーはレーンですね。手綱の持ち方で分かります。ああ、なるほど。ここでハミを取られちゃってるんだ」と大江助手は一つひとつの動作にコメント。そして「やっぱり簡単な血統じゃないなと改めて思いましたね。堀キュウ舎がじっくりと進めている理由が分かりました。走り方も
ディープインパクトのそれじゃない。これも
ラインベックと一緒です」と、こちらが予想していた答えに近いコメントも。
アパパネの子はディープ産駒の特徴を持っていない――。これも大事なポイントだろう。最速上がりで連勝といっても、それはあくまで残り600メートルの数字であって、一瞬の脚の速さを示すものではないのだ。
「
ラインベックは1ハロン10秒台のような瞬間的な脚は使えないでしょうね。それは能力の問題ではなく、あくまでタイプの話。仮に速い上がりが必要な状況であったとしても、4ハロンが44秒台、3ハロンが33秒台とかなら対応できると思う。だからこそ、自分から動いて流れをつくっていく必要があるんです」(大江助手)
そんな特徴を踏まえた上での東スポ杯。それは簡単なミッションではないように思える。なぜなら頭数だけではなく、その顔触れまでを吟味すれば、超スローペース→高速上がり決着になっても不思議のない状況だからだ。友道キュウ舎では翌週の
京都2歳Sに同じ2戦2勝の
マイラプソディを予定。タイプ的には選択するレースが逆なのでは?
「そう言えるのかもしれませんが、逆に2歳のこの時期だからこそ、イメージと違うところで走る意味がある。ここを突破すれば、次はおそらく
弥生賞あたりになると思うんですが、中山は上手に走れると思うんです。つまり、今回の一戦で結果を出せるようなら、かなりの手応えを持って春に向かえるんですよ」
東スポ杯はクラシックにつながるレース。そのフレーズは同じ東京で行われるダービーを意味したものであるはずだが、すでにオープン勝ちを決めている
ラインベックは今回の一戦を他馬と違う観点で走ろうとしている。これも一つのキュウ舎力。
「まだまだキ甲も抜けていないし、幼い面が残っているけど、ス
トライドが大きくなって、これまでよりもパワーがついてきた。夏に使った時よりも馬の雰囲気は、だいぶ良くなってますよ」
本当は扱いが難しいはずの血統馬を
エリートホースであるように見せ、しっかりと結果を出していく。今年の東スポ杯は、
ジャパンC5頭出しを予定する友道キュウ舎のキュウ舎力を見せつけるレースになるかもしれない。
(松浪大樹)
東京スポーツ