好カードとなった今年の「宝塚記念」は、昨年の売り上げを大きく上回り、WIN5「2億円」のビッグ配当にも貢献し、レースの中身もレースレコードの「2分10秒1」であると同時に、2200mのJRAレコードとタイ記録。夏のグランプリにふさわしい、期待を大きく上回る好レースだった。
強力な先行型は不在。スローで流れる公算大と思われたが、好スタートのアーネストリーを内から交わして主導権を握ったナムラクレセントがそのまま勢い良く先導した結果、レース全体の流れは「58秒7-(12秒1)-59秒3」=2分10秒1。
隊列のでき上がった2コーナー近くで一度だけ1ハロン「12秒7」が記録された以外、前半から速いペースで展開した流れは後半の1200mもすべてハロン「12秒1」以内。緩むところなしの高速の中距離スピードレースとなった。上位6番人気までに支持された有力馬のうち、暑さ負けの影響か大きく沈んだトゥザグローリー以外の5頭が「5着」までを占める結果となったから、展開うんぬんの紛れなどなし。厳しい実力勝負だった。1着アーネストリー(父グラスワンダー)、2着ブエナビスタ(父スペシャルウィーク)の結果は、1999年の宝塚記念の1着グラスワンダー、2着スペシャルウィークの再現でもあった。
アーネストリーは、昨年と同じステップ。同じように2番手追走から4コーナー先頭。ただし、昨年よりずっと厳しいペースに乗り、昨年はゴール寸前で差されたブエナビスタを封じ、昨年の2分13秒2を大きく更新するJRAタイレコードの2分10秒1だった。昨年、粘ってくれれば良かったファンの方が多い気もするが、大幅に、明らかにスケールアップしていたから素晴らしい。強くなったのである。
競走馬は「持って生まれた資質(才能)をフルに発揮できるよう、コンディションを整えてあげることがすべて。鍛えたからといって別に強くなるわけではない」。そういう手法で、高額の血統馬を手がけるトップトレーナーがいま主流だが、コンビの佐藤哲三騎手が佐々木晶三調教師とそのスタッフとともに育て上げたタップダンスシチー、29日の帝王賞に出走する佐藤哲三騎手のエスポワールシチー、そして4歳時や5歳時より明らかに強くなったこのアーネストリーをみていると、また、われわれ人間のオリンピックや世界選手権に向かうアスリートをみるとき、持って生まれた才能こそすべて。そう得心してしまうのは、明らかに思考力虚量であるように思える。
鍛えるといって、故障もいとわずやみくもにハードな調教を課すなどという意味ではまったくない。サラブレッドはわたしたち人間とおなじ生命体、生活まで同じ仲間である。お互い、それは持って生まれた資質に差はあるだろうが、より高い志をかかげ努力に努力を重ねたサラブレッド(人間)と、才能の差にすべてを帰結させるサラブレッド(人間)とでは、明らかに異なる部分があるに違いないという程度の意味である。少なくとも、サラブレッドだけが「才能こそすべて」などありえない。ロボットではないから。
アーネストリーは、まだ、凱旋門賞挑戦の夢は捨てていない。祖母ダイナチャイナ(父ノーザンテースト)は、シンボリルドルフを倒した天皇賞馬ギャロップダイナの全妹になる。決して古い牝系ではなく、最近、このファミリーからユニコーンSを2着したグレープブランデー(父マンハッタンカフェ)が頭角を現している。
ブエナビスタは、ふっくら見せてプラス12?の「472」。完成の域に達した古馬牝馬がいまになって急に馬体重増は、ときに「次の役割」を予感させたりして、現役競走馬としては複雑なサインであることも珍しくないが、最後は力で伸びて2着。すっかり勝ち運には見放されてこれで5連敗(実際には4連敗)ではあるが、しかし、強いというより「偉い牝馬だ」というしかない。少しストライドが硬くなった気もするが、懸命にチャンピオンの名誉を守り抜こうとしている。どんなに苦しくなっても直線に向くと伸びてくる。
もう少し早めにスパートしたら「届いたのではないか」、という見方もあったが、それは逆なように思える。「早めに動いて出てくれ」の指示がでた当時のブエナビスタは、それは彼女だから崩れはしなかったが、全然、光ってはいなかった。
エイシンフラッシュ(父キングズベスト)は、中団のインで折り合って追走。コース取りといい、スパートのタイミングといい、さすがは安藤勝己騎手。テン乗りながらパーフェクトの騎乗だった。あれで前のアーネストリーを捕らえられず、追い込んできたブエナビスタにかわされては仕方がない。この時期の馬場をレコードタイの記録で1〜2着した古馬2頭が、現時点の総合力で上だった。「スローに近い流れの方がスパッと切れそうに思えた」という安藤勝己騎手のコメントは、まったくその通りと思える。距離適性とは別の部分で、こういう流れのスピードレースは得意ではないのだろう。
大跳びで、そうは切れないルーラーシップ(父キングカメハメハ。母方にもサンデー色がない)は、ヨレ気味のスタートで接触し明らかに出負け。下げて進まざるをえなくなった時点で、苦戦必至だった。外から徐々に進出を図って差し切れるような相手ではない。といって控えて進んでもさして切れない。本当は好位のインを確保したかったろう。
ドリームジャーニー(父ステイゴールド)は渾身の仕上げと見えたが、7歳夏。さすがに全盛時の活力はもう残っていなかったのだろう。引退の可能性が高い。