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小倉記念

  • 2011年08月01日(月) 18時00分
 例年とは異なり夏の小倉開幕週。高速決着が予測された。脚部難が解消し、追って体がもどったホクトスルタンが先導した流れは、序盤にハロン10秒台のラップを2回も含み、前半1000m通過は「57秒1」。2番手以下も接近して追走したから、その後もペースの落ちる部分はなく「1400m通過1分20秒9-1600m通過1分32秒9……」。平坦に近い小回りコースとはいえ、2000mとすればきわめて希な高速ペースとなり、中団からスパートして勝ったイタリアンレッド(父ネオユニヴァース)の勝ち時計はコースレコードを大きく更新する「1分57秒3」だった。

 レース全体の前後半のバランスは前傾の「57秒1-60秒2」。まだ記憶に新しい1分57秒2の快レコードが記録された2008年の秋の天皇賞(ウオッカ-ダイワスカーレット)の中身は、前後半「58秒7-58秒5」だから、全体バランスが大きく異なるだけでなく、GIIIとすれば非常にきびしいフルゲート18頭の激戦だった。

 コースや後半のラップは違っても、あの天皇賞・秋は9着キングストレイルまで「1分57秒台」で乗り切る大接戦に持ち込まれたが、今回も10着アドマイヤメジャーまで1分57秒台だった。それで追い詰め損なったグループにはまだ脚が残っていたように見えてしまうから、高速決着のレースというのはいまさらながら不思議である。

 ハナに立ったダイワスカーレットは「58秒7−58秒5」のバランスで1分57秒2を記録したが、今回、快勝したイタリアンレッド自身の前後半は差す形で推定「58秒4−58秒9」。なぜかこちらもバランスを失っていない。

 あの天皇賞・秋では、ウオッカやカンパニーやディープスカイは、もっと変形バランスで1分57秒2を記録したが、かれらはAクラスのオープン馬。どんな形もとれる。ああいうトップの馬を別にすると、あくまで結果的に…ではあるが、今回のような高速決着のレースでは、終わってみると前後半のバランスを失っていない馬が快時計で乗り切っている。15番人気の伏兵キタサンアミーゴ(父フジキセキ)が位置していたのも勝ったイタリアンレッドの直後だった。したがって、偶然ではないと思える。

 牝馬イタリアンレッドは、この日、また体が大きく映るくらい気配絶好だった。個人的には調教の動きが平凡に見え、ここまで2000mを8戦もしていながら最高時計が1分59秒7にとどまるイタリアンレッドは、危ない人気馬と思えたが、大きなストライドでポツンと中団を楽々と追走。途中から外を回って自分からスパートして、コースレコードの1分57秒3。自身の持ち時計を2秒4も短縮しての完勝だから脱帽するしかない。

 ネオユニヴァース産駒は新潟の高速レースではほとんど好走例がないように、あまり夏の高速レース向きではない印象をもっていたが、この点も修正したい。これでサマ―2000シリーズ2連勝で「20」ポイント。このあとは秋に備えて放牧の予定というが、GII札幌記念をキングトップガンが勝って12Pを加算しない限り、2000シリーズのチャンピオンはほとんど決定だろう。

 同じハンデ戦の七夕賞や函館記念や、新潟記念より小倉記念はもっと荒れる。波乱必至。先刻承知の多くのファンが伏兵を探したが、その網にもかかりにくかった15番人気のキタサンアミーゴが馬群を割って2着。よって3連複も、3連単も、「5ケタ以上」を続ける波乱の歴史は守られた。これで6年連続である。

 キタサンアミーゴはウォータクティクスの半弟。3代母はダイナカール。エアグルーヴ、アドマイヤグルーヴなどが近親馬に名を連ねる現在の日本でもっとも評価の高いファミリーの出身。それでもちょっと買えないが、しかし、フロックでGIIIを1分57秒6では乗り切れない。これで大きく変わるかもしれない。

 内枠を生かすため最初から強気に流れに乗る作戦をとった8番人気のリクエストソング(父シンボリクリスエス)。突然、石橋守騎手に乗り代わったが、ぴたっと好位のインをキープしたヤマニンキングリー(父アグネスデジタル)。さらには先手を取れなかったエーシンジーライン(父ジャイアンツコーズウェイ)が惜しい3〜5着。

 前傾のハイペースになりすぎた流れを考えると、この3頭は負けたとはいえそれぞれ中身は誇れる。とくにリクエストソング(和田竜二騎手)は惜しかった。新潟記念の特注馬と思える。

 人気のナリタクリスタル(武豊騎手)と、最終的には2番人気になったアドマイヤメジャー(上村洋行騎手)は、内枠の差しタイプとあって馬群をさばかなければならない難しい立場だったが、ナリタクリスタルは最初から行き脚もう一歩。反応も鈍かった。なんとなく押し出された1番人気の苦しい立場ではあるが、終始精彩を欠いた。

 アドマイヤメジャーは前回かかったから仕方がないが、消極的になり、結果、わざわざ苦しい位置を探しに行くようなレース運びになってしまった。また次走も騎乗できるか分からないが、不本意だったろう。ぜひ、巻き返したい。

 飛ばして「1000m通過57秒1、1600mを1分32秒9」でまだ先頭だったホクトスルタン(父メジロマックイーン)。函館記念を快走のベテラングループに比べたら、まだキャリア25戦の7歳馬、とても年齢や衰えなどいえない。やっと乗り越えた脚部難がこのまま再発しないことを祈りたい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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