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宝塚記念

  • 2012年06月25日(月) 18時00分
 さまざまな意味で注目の集まった4歳オルフェーヴル(父ステイゴールド)が、鮮やかに立ち直ってみせた。3歳時の日本ダービー、さらには菊花賞当時よりもっと強さを浮き立たせるレースを展開することに成功した。

 陣営が、最高の状態だった当時に比べると7分、あるいは8分程度の仕上がりと繰り返したオルフェーヴルの状態は決して煙幕ではなく、ほかの馬なら別に物足りなさを感じないだろうが、4冠馬オルフェーヴルとすると明らかに不足する面があった。当日の栗毛の馬体はあまり輝いていなかった。腰のあたりの筋肉も盛り上がった印象はなく、5戦連続して460以上だった馬体重も久しぶりに450kg台。馬体から発するオーラのような威圧感も乏しかったかもしれない。

 だが、明らかにひと回り大きくなった3歳の後半には「母の父メジロマックイーン」の影響が強調された体つきは、細身に映った今回、「やっぱり父ステイゴールド」の大きな特質が出てきたようにも思わせるから、細いというのとは異なるのだろう。

 先導役のネコパンチは状態うんぬんには関係なく行かなくては意味がない。盛んに気合を入れて飛ばしたから、「前半1000m通過58秒4-(12秒1)-後半60秒4」のバランスになったが、事実上のペースのカギを握っていた先団のビートブラックなどの前半1000m通過は、推定59秒6〜7前後。したがってレースの流れは最初から破綻はなく、やや速い程度の一定ペース。勝ちタイムは2分10秒9。芝状態からくる馬場差を考慮すると2分10秒前後に相当の好タイムだろう。

 良馬場のレベルの高い2000mのレースなら、主要競馬場では1分58秒前後がふつうになった現在、わずか1ハロンしか違わない2200mでは2分10秒台の勝負が展開されて当然と考えられてきたが、昨年につづいて今年も2分10秒台。全体にタフな芝コンディションに転じていたから、5着マウントシャスタのあとは5馬身もちぎれてしまったが、レースの流れによってもたらされた紛れはない。底力(実力)の勝負だった。

 オルフェーヴルは立ち直った。コンビの池添謙一騎手も、レースのあとはともかく、レース中は陶酔型の自己を捨て、オルフェーヴルの能力全開の黒子に徹したかのような完ぺきな騎乗だった。すぐ前にルーラーシップ、エイシンフラッシュなど当面の相手を見据え、静の「間(マ)」を取ったレース運びに隙なし。オルフェーヴルに自信をよみがえらせたから見事である。レースを終えた直後のオルフェーヴルの殺気の残る眼がとくに印象的だった。「勝って学ぶことは、恐ろしいほど少ない」の金言もある。阪神大賞典、つづく天皇賞・春の大失態によって得たものは大きかったのである。

 香港でGI馬となった5歳ルーラーシップ(父キングカメハメハ)は、凡走と快走を繰り返していたこれまでとは明らかに異なり、一段と大きくゆったり見せた。圧倒的なスケールには頼もしささえ感じさせた。ちょっとスタートが良くなかったロスはあるが、巧みに流れに乗って4コーナー手前から後続を気にすることなく自信をもってスパート。芝のいい外側に進路を取ったのも描いた作戦通りだったろう。

 結果、内に進路を取ったオルフェーヴルと2馬身差。選んだコース取りの差ではない。こちらはほぼ完調。オルフェーヴルは、(見方は分かれるが)あまり誉められたデキではなかったろう。管理する角居調教師は「上手に競馬はできた。このあとのことは馬の様子をみてから判断したい」と足早に検量室をあとにしたと伝えられる。今回のルーラーシップの完敗の2着、かなりショックだったのではないかと推測される。

 絶好調を思わせた4歳ショウナンマイティ(父マンハッタンカフェ)は、機にはやることなく、自分の最大の持ち味発揮に徹した。4コーナー手前からオルフェーヴルを見るように差を詰め、同じようなコースを選び、同じようなタイミングでスパートしたが、ここで使ったオルフェーヴルの加速が素晴らしすぎた。前方の同じような位置にいたエイシンフラッシュが一瞬のうちに引き離されたほどだった。オルフェーヴルがこれまでより強く、かつ鮮やかだったから、この敗戦は仕方ない。

 ウインバリアシオン(父ハーツクライ)も素晴らしいデキだった。内からスルスルと進出し、4コーナーから外目に回って勝ち負けに持ち込めるかの勢いだったが、あまりこういうレースをしていない弱みが出たか、直線もう一歩。ジャパンCと同様、脚の使いどころの難しさを思わせた。名脇役になりつつあるのは心配だが、母方の特徴が色濃く出ているとすると、案外2000m以下の方が合っていたりする可能性もある。

 3歳マウントシャスタ(父ディープインパクト)は、力試しをするように最初から正攻法の果敢なレース運び。古馬との斤量差5kgを余すところなく生かし切っての好走だった。パドックでの仕草などいかにも経験不足の若い馬を感じさせたから、この善戦はたちまち秋の躍進につながるだろう。

 アーネストリーは、ペースと自身の位置取りとからすると、途中までは昨年と同じようなレースだったから、今年の内容は平凡。昨秋の天皇賞あたりからレースの内容が良くない。5歳トゥザグローリーは、途中まではうまくレースの流れに乗ってオルフェーヴルのカベになる位置にいたが、勝負どころから後退。これまでと同じで、有馬記念3着、3着はあるが、ほかのGIではどうしても足りないランキングから脱出できない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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