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京成杯AH

  • 2012年09月10日(月) 18時00分
 今年は春の京都の高速コースを筆頭に、2開催目の新中京も、東京も、夏に移って新潟も小倉も、洋芝コースでも、速いタイムの出る高速の芝コンディションが連続している。「札幌、新潟、中山、東京、中京、京都、小倉」7場の芝コースで。ダートも含めると阪神でも。開催の少なかった函館、福島以外のJRA8場で、コースレコード、日本レコードが再三飛び出している。

 秋シーズンの阪神、中山に移ってますます高速化が強まり、この日の中山1200mでは1分06秒9のコースレコードが記録され、マイル戦ではとうとう1分31秒のカベが破られ、「1分30秒7」の日本レコードが樹立された。

 急に全体レベルが高くなったわけではなく、多くはエクイターフの導入などの整備で痛みの少なくなった芝コンディションがもたらした記録更新であり、幸い、馬場が硬すぎるという声はあまり聞かれない。だが、先日、今春の京都2200mで2分10秒0の日本レコードを記録した3歳トーセンホマレボシの突然の引退が発表されたばかりだから、腱に影響するここまでの快時計続出はちょっと複雑である。

 また、レコードはともかくとして、高速の芝なのでそれなりのペースで行くなら速い時計の決着や、上がりタイムの猛烈に速いレースはみえている。でも、実際にはスローで流れるレースの方がずっと多いから、この秋、これまでは「忘れたころに…」だった思い切っていく人気薄の逃げ馬の快走が多くなったりするかもしれない。

 そうムキになっては飛ばさないだろうと思われた逃げ=先行馬のうち、果敢に飛ばしたのは3歳の伏兵ゼロス(父キングカメハメハ)。最初の1ハロンではそう行く気もないように思わせて、2ハロン目から「10秒9-10秒9-11秒1-11秒1-11秒2…」。後半のスタミナは保障のかぎりではなく、とにかく行くだけ行った形だった。コーナーの最初の1ハロンを除くと、そこから直線に向くまでの1000mはなんと「55秒2」である。先週までの新潟1000mならふつうのペースだが、坂のあるコースの、マイル戦の中間記録として最速タイムだろう。

 ゼロスが引っ張ったことにより、縦長になったレース全体は「45秒1-45秒6」。行くだけ行ったとしたが、ゼロス(石橋脩騎手)の作ったペースがピント外れという意味ではない。最初の1ハロンを含め、ゼロスの「1000m通過は56秒2、1200m通過1分07秒4」。1400m通過1分18秒9の地点では、残念ながらもう追走のコスモセンサーにかわされたが、無謀にもみえたゼロスは1分32秒2で乗り切っている。

 ここまで高速の芝状態だと、結果はオーバーペースでも、強気に先行して自身で時計をたたき出した馬の中身は優秀である。1分18秒9が刻まれた1400m通過地点(日本レコードより速い)、そこでもう先頭だったトップハンデ57.5キロのコスモセンサー(父キングカメハメハ)は、最後は差しこまれて4着だが、自身のマイルの最高時計は確実に短縮して1分31秒3だった。ポン駆けOKだが、今回は必ずしも完調とは思えなかっただけになおさら価値がある。飛ばしたのも、追走して2番手から抜けかかったのもキングカメハメハ産駒。伝えるスピード能力は素晴らしい。

 同じトップハンデ57.5キロ。坂上でコスモセンサーを交わして勝ったかと思わせた7歳スマイルジャック(父タニノギムレット)は、残念、かつ無念。最内枠の利を最大に生かし好位のインをキープし、そのまま巧みにインを衝いて先頭に立って「1分30秒9」。日本レコードで勝ったに等しい内容だったが、この馬、持って生まれたあとちょっとのツキのなさを思わせた。

 どうみてもふつうなら勝っていたはずの「日本ダービー」のゴール寸前と同じである。すっきりみせて488キロ。最高の仕上がりを思わせただけに、7歳秋のこの惜敗は大きい。コンビの田辺裕信騎手、非の打ちどころなしの好騎乗だが、最後、内にややスペースを空けていたため、イン強襲が成功したはずが、自身のさらに内を衝かれて差されたあたりがスランプなのだろう。あれでも完ぺきではなかった。

 高速決着は承知。ある程度のポジションを確保できなければ苦しいことを分かっていながら、ベテラン横山典弘騎手は中団より後方のインでずっと待っていた。体内時計は高速馬場とはいえ度を超した猛ペースを察知し、動かなかった。内ラチ沿いをキープしていればそこにだけ勝機が生まれる可能性がある。インが開かなければ勝機は訪れないが、だからといって外に回ったら、その時点でやっぱり負けである。

 みんな高速馬場で小さなロスさえ許されないのは分かっていた。縦長になった道中、みんな可能な限り内の方に寄ってレースを進めていた。だが、直線に向いてからもこういう特異な高速馬場だと、外に出してはそれが小さなロスとなって伸びないから、たしかにこんな芝コンディションは公平ではない。上位6着馬までの中に入った外寄りの馬は、内田博幸騎手の3着スピリタス(父タニノギムレット)だけである。

 人気の中心エーシンリターンズ(父キングカメハメハ)は外枠だから中団追走になったが、道中は少しでも内寄りに進路を取ろうと苦心した。だが、さすがに馬群の固まった4コーナーで残念ながら内に潜り込むスペースがなかった。同じ位置にいたスピリタスはその内にいて、そこから捻じ込むようにインに入って3着に押し上げることに成功した。

 巧みに馬群のインに割って入ったスピリタス以外の外枠の馬は、すべて7着以下。もともと断然内枠有利が中山の芝1600m。高速の芝だとその特徴がさらに大きくなる。ドリームバスケットは見直したい。マイネルロブストも同様だが、こちらは朝日杯のころの素晴らしい状態ではなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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