「牡牝三冠馬対決」で盛り上がった先週のジャパンカップ。ゴールの瞬間までつづいた激烈な叩き合いは見応え充分だったが、そこに至る過程で、アクシデントがあった。
最後の直線で、先頭を走っていたビートブラックと、その外に並びかけたオルフェーヴルとの間のスペースにジェンティルドンナが割って入り、オルフェを弾き飛ばす格好になった。
内のジェンティルドンナが1位、外のオルフェがハナ差の2位で入線した。
審議が長引き、また、裁決室に出入りするメンバーからして、検量室前にいた私は降着になるのではないかと思っていたが、入線順位のとおりに確定した。
降着にはならなかったものの、ジェンティルドンナの岩田康誠騎手は、最後の直線で外側に斜行した進路の取り方が強引だったとして2日間の騎乗停止となった。これは、トールポピーが勝った2008年のオークスでも適用された「降着のない騎乗停止」という措置である。
本稿でも書いたように、来年からJRAの降着ルールが変わり、現行のカテゴリー2からカテゴリー1に移行する。
現在は、その走行妨害が、被害馬の競走能力の発揮に重大な影響を与えたと裁決委員が判断した場合、加害馬は被害馬の後ろに降着となる。新しいルールでは、その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していたと裁決委員が判断した場合、加害馬は被害馬の後ろに降着となる。
今回、降着にならなかったということはつまり、ジェンティルによる走行妨害がオルフェの競走能力発揮にそれほど大きな影響を与えなかった、と裁決委員によって判断されたということだ(=カテゴリー2の裁決基準)。
それは受けとめるしかないとして、では、もしこの事象が来年以降のカテゴリー1の裁決基準のもとで発生したとしたら、どうか。
先日、柏木集保氏が「重賞レース回顧」で個人的見解として、新ルールでは降着にならないと考える、といったことを書かれていたが、私の考えはちょっと異なり、逆に、降着になる可能性もかなりあるように思っている。
そう考える一番の理由は、バランスを崩してから立て直すまでほんの少しとはいえ確かにロスがあり、そして最終的にハナ差でゴールしていることだ。被害の程度が軽微であっても、そのちょっとの被害がなければ着差もまた僅かだっただけに、あのハナ差は逆転していたのではないか、と。それに対する反論として、「走行妨害のあと、あれだけビッシリ叩き合ったのだから、充分逆転可能な距離と時間はあったはずで、その結果先着できなかったのだから、走行妨害がなかったとしても逆転できていないだろう」と言われるかもしれない。私としては、「まあ、そうですよね」としか言えないし、それ以上何かを言うつもりもない。
ともあれ、あのレースを見て思ったのは、これまでカテゴリー2の裁決基準のもとで降着となった事例のほとんどが、カテゴリー1のルールでは降着にならないと思われたのに、その逆、つまり、現行ルールではセーフだったのに新ルールではアウトになる可能性のある初めての事例(私が見てきたなかでは、という意味だが)ではないか、ということだ。
もう少しだけ個人的な考えを言うと、オルフェの受けた不利は、けっして小さくはなかったように思う。サッカーをしたことがある人なら、いや、見たことがあればわかると思うのだが、例えばドリブルをしているとき、後ろや斜め後ろから、自分より小さく非力な選手にちょっと当たられただけで、ものすごい転び方をしてしまうことがある。これが真横から当たられる場合だと、方向的にも踏ん張りやすいし、それ以上に準備ができているので状況はまるで変わってくるのだが、オルフェの場合、当たられると思っていなかったとき、準備していなかった方向から当たられた、という意味で気の毒だった。当たる側のダメージが少なく済むことに関しては説明は不要だろう。
いずれにしても、両馬とも、レース後も元気なようなのでほっとしている。
話は変わるが、全13回オンエアのグリーンチャンネル「日本競馬の夜明け」のロケが、あと3回でついに終了する。ひとつは「海外挑戦史」に必要な、ハクチカラやタケシバオーがアメリカに遠征したときの写真を、故・保田隆芳氏のお宅でブツ撮りさせてもらうロケ。もうひとつはハイセイコーの関係者への取材。そしてもうひとつが、中山競馬場での私の語りパートの撮影である。
あと少しだと思うと力が抜け、まだ終わっていないのに燃えつき症候群になりかけている。
まだ燃え尽きるのは早い。本当に早いのか? とか、わけのわからないことを言っている暇があったら、新企画の準備でもしよう。