今年も粘った松岡正海騎手の8歳シルポート(父ホワイトマズル)の逃げは素晴らしい。間隔があいて調教の動きも気配もかなり平凡。さすがに今年は苦しいかと思えたが、
昨年は、前半「36秒0−47秒4−58秒7…→」
今年も、前半「36秒2−47秒5−58秒6…→」
ほとんど同一のペースで離して飛ばし、自身の後半は、
昨年が「…48秒7−37秒1−13秒3」 (走破タイム1分47秒4 2着)
今年も「…48秒7−37秒3−13秒3」 (走破タイム1分47秒3 3着)
馬場状態は問わないシルポートとはいえ、昨年は重馬場、今年は良馬場。厳密にいうと今年のほうが自身の内容はちょっとばかり見劣りそうだが、道中のペースといい、後半いっぱいになりながら粘ったゴール前といい、ほとんどVTRである。松岡正海騎手は、シルポートに乗るのは昨年の中山記念以来、今回が2回目だった。これはすごい記録である。
シルポートは、複数回連対してみせるリピーターにはなれなかったが、そっくり同じようなレースを再現してみせたという点では、過去の中山記念のリピーターよりもっと、中山1800mのスペシャリストらしかった。もっと若い時期からこの中山記念を使いたかった。
勝った5歳ナカヤマナイト(父ステイゴールド)は、これで中山の芝[4−2−0−1]。うち1800mに限れば、1、1、1着。すべてのレースに騎乗するコンビの柴田善臣騎手は、現役騎手最多の中山記念4勝目となった。今回はAJCCをフレグモーネで回避したあとの1戦。それもあってか、返し馬に入ってからはさすがに迫力満点だったものの、パドックの気配など決して誉められたものではなかったこと。有利ではない外枠だったこと。また、ナカヤマナイトの理想の距離は1800〜2200mくらいと思えるから、上昇を見込めば、同じステイゴールド産駒のナカヤマフェスタと同じように、宝塚記念あたりでGI制覇のチャンスがあるかもしれない。もちろん、渋馬場という条件は欲しい。
もっとも、8歳シルポートを尺度にすると、シルポートと同じようなランキングのお友達である限り、GIレベルに達するにはまだまだという厳しい見方も生じる。5歳になったばかり。成長力は十分にある。もう一段のステップアップに期待したい。
6歳ダイワファルコン(父ジャングルポケット)は、前出の厳しいペースで離して飛ばすシルポートの2番手。目下、関東リーディングのトップに立ち絶好調の北村宏司騎手(落馬からなにごともなかったように騎乗)にとって、シルポートの特徴は十分すぎるほど分かっている。しかし、ダイワファルコンも先行してこその馬。ハイペースで離して飛ばす逃げ馬の2番手になるほど乗りにくい位置はない。シルポートを自身で捕まえに出なければいけないが、かといって、早く動き過ぎては後続の格好のイケニエになりかねない。一番つらい立場である。ゴール寸前、なんとかシルポートに並ぶことはできたが、捕らえたともいえない微差であり、直後からきたナカヤマナイトには着差(クビ)以上の地力の差を感じる完敗。ダイワファルコンは、おそらく最高に乗ったことにより、逆に、現時点での自身の限界もみせてしまった気がする。立派な2着だが、陣営もあまりうれしくはないだろう。
人気のタッチミーノット(父ダンスインザダーク)は、おっつけて出るならナカヤマナイト、あるいは、ダノンバラードなどと同じような位置取りは可能だったろう。最初は行きそうな構えもみせた。しかし、最終的には切れを生かしたい同馬とすると、シルポートの飛ばすレースで外枠から前半に脚を使うと、後半の切れを削がれる危険を受け入れなければいけない。ジワジワ伸びるナカヤマナイトとは持ち味がだいぶ異なる。
こと距離1800mでは、タッチミーノットとおそらく同じような特徴と能力を持つと思えるダノンバラード(父ディープインパクト)は、懸念のささる癖を出さないよう、早めに内ラチからあまり離れない位置を確保したいテーマも重なっていたため、敢えて前半から位置を取りに行った。結果、ダノンバラードは失速した。一方、タッチミーノットは差す形でただ1頭、上がり34秒台の脚を使って勝ったナカヤマナイトから「0秒1差」には追い込んだが、こちらも数字ほどは惜しくない敗戦である。
中山1800mの適性を考えるとき、「少しも特殊な距離ではないが、現にスペシャリストが存在する難しいコースと距離である」のは事実。ただし「トップホース級なら苦もなくこなして当然」なのも歴史が示すとおり。したがって、タッチミーノットはこの距離がベストではないにしても、結果はパンチ不足の敗戦を否定できない気がした。ダノンバラードの場合は、馬は素晴らしく良くなっていたが、たぶん1800mは適距離よりちょっと短いのだろう。
昨年、小差3着のリアルインパクト(父ディープインパクト)は、新馬シュガーパイン(この日、9頭立て9着)に見劣りかねない追い切りと同様、少し覇気が乏しかった。逆に、デキ上昇と思えたトーセンレーヴまでいいところなく失速したから、やっぱりディープインパクト産駒の多くは、この時期の中山コース(芝の成長一歩)は、あまり歓迎ではないのだろう。
「阪急杯」のロードカナロア(父キングカメハメハ)は、一番の好スタートから相手に好きなようにレースをさせたうえで、最後は完勝。立ち直っていた昨年の勝ち馬マジンプロスパー以下を問題にしなかった。今回は他馬にもつけいる隙ありと思えたが、着差以上の楽勝である。1400mもOKとなれば、これまで以上に1200mの「高松宮記念」では強気のレースを展開ができる。残念ながら、今回対戦したグループでは逆転困難と思える。