今回は、7月25日(木)から29日(月)までの相馬野馬追取材(野馬追は27〜29日)で出会った元競走馬のフォトリポートをお届けしたい。
レッツゴーキリシマ
■レッツゴーキリシマ
前回紹介したように、私の友人でもある小高郷の騎馬武者・蒔田保夫さんが騎乗するため、会津から呼び寄せた。現役時代、逃げる競馬が多かったのは怖がりだからではないか……と、蒔田さんは心配していたが、南相馬入りした木曜日に乗ったことで、いくらか落ちついてくれた。
しかし、相馬野馬追本祭りの甲冑行列で、沿道に数万人がひしめくなか歩き出すと、競走馬時代の本馬場入場を思い出したのか、少しチャカチャカしはじめた。
それでも、野馬追がハネたあと、騎馬武者仲間に「お前の馬が、一番立派な体をしていたよ」と言われた蒔田さんは、満更でもなさそうだった。
友人の3年ぶりの野馬追出陣に力を貸してくれて、ありがとう、キリシマ君!
■バシケーン
相馬中村神社の厩舎にて。ご存知、2010年のJRA賞最優秀障害馬。今年1月20日にここに来た。鼻先にポツンとマメのような点があるので、「マメちゃん」とか「マメゾウ」と呼ばれ、可愛がられている。
バシケーン
フェニコーン
まだ競走馬時代の気性の激しさが若干残っているが、今の環境にすっかり慣れた様子だった。
■フェニコーン
2008年3月1日に三浦皇成騎手が初勝利を挙げたときの騎乗馬であるフェニコーンも、相馬中村神社にいる。「ガブリと来るから、撫でるときとか、気をつけてくださいね」と禰宜の田代麻紗美さん。
この厩舎には、ほかに、スティルンラブがただ一頭残した産駒のジューダ、トウショウモード、ホワイトエンジェル、サザンビクトルといった元競走馬がいる。
■タガノムゲン
現在のオーナーは、小高郷の騎馬武者として野馬追に出ていた渡部孝信さん(写真右)。
私が、震災の年、縮小開催された野馬追取材を終え、人も馬もいない雲雀ヶ原祭場地を訪れたとき、たまたまそこで知人と待ち合わせるため、騎馬武者姿で立っていたのが渡部さんだった。
タガノムゲンは震災の翌月、養老牧場のホーストラスト北海道代表の酒井政明さんによって引きとられた「被災馬」である。北海道で英気を養い、昨年の春、また南相馬に戻っていた。
タガノムゲン
シルクファイナル
渡部さんと、今年の野馬追で再会することができた。
■シルクファイナル
騎乗しているのは小高郷先頭軍者の本田博信さん(写真左)。馬上から、「島田さん、これ、ナリタブライアン産駒のシルクファイナルです」と教えてくれた。本田さんは、前出の蒔田さんの同級生で、馬術の選手として国体に出場したほどの乗り手である。息子さんに、私を「『優駿』や『ギャロップ』で書いている人だよ」と紹介してくれたのは嬉しかった。拙文を読んでくれているらしい。
本田さんも蒔田さんも、原発事故の影響で自宅に戻ることができず、今年も避難先からの出陣となった。そうしたつらさ、苦しさを感じさせないエネルギーを、この伝統の祭りから得ているのかもしれない。
■カフェボストニアン
野馬追最終日の野馬懸で、騎馬武者たちに追われて相馬小高神社境内の坂を駆け上がり、神前に奉納されるという役割を果たした。
例年なら5頭が追われるのだが、今年は去年と同じく3頭になった。
カフェボストニアン
1頭目のスキップリターンは、坂を上がっている途中で騎馬武者に追い越され、少し立つと止まり、ターンして逆走するという愛嬌たっぷりの走りでギャラリーを沸かせた。
2頭目がこの馬。さすがにスプリントGIに出走したスピード馬だけあり、騎馬武者たちの前を飛ぶように走り、集まった人々(特に、テレビ局のクルーや、私のように写真を撮る人間たち)を大いに喜ばせた。去年もこの馬が猛スピードで駆け上がってくれたおかげで、とてもいい写真を撮ることができた。まさに野馬懸の名手、である。
甲冑競馬では、乗り手の体重と甲冑、鉄製の大きな鐙、鞍などを合わせた斤量は、楽に100kgを超える。斤量が100kg超の争いになると、55kgや57kgで争っていた現役時代とは、力関係が逆転することも珍しくない。競走馬としてはブッちぎられていたオープン馬を、相馬野馬追の甲冑競馬では1000万下の条件馬が突き放してしまうこともままあるのだ。
また、現役時代は闘争心が足りず、そのため成績が今ひとつだった馬が、甲冑行列ではおとなしいがゆえに乗りやすく、大歓迎されることもある。また、カリカリしていないので他馬を怖がらず、神旗争奪戦で旗に殺到する馬群にスッと入っていける馬がいる。逆に、競走馬として速かった馬は、敏感すぎたり、うるさい馬が多いので、行列や神旗争奪戦の適性がなかったりするのだ。
こんなふうに、相馬野馬追の出場馬には、競走馬とはまた違った適性が求められるので、トレセンでは影の薄かった馬が、ここでは優等生として重用されることもある。
サラブレッドの「第2の馬生」について、「へえ」と思わせてくれることがたくさんあるのも、世界最大級の馬の祭り、相馬野馬追ならではである。