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桜花賞のリハーサルを思わせるハイレベルな一戦/阪神JF

  • 2013年12月09日(月) 18時00分


◆父ステイゴールドの長所を受け継ぐレッドリヴェール

 好素質馬がそろって非常にレベルが高いとされるこの世代、1分33秒9[46秒3-47秒6]の決着は期待どおり中身の濃いレースだった。

 ウオッカの勝った2006年の1分33秒1は、改修されてオープンしたばかりの新阪神の記録であり、次の2007年もまだ好タイムが出やすいコンディションでの1分33秒8(勝ち馬トールポピー)だった。そのあとの最近5年間はずっと「1分34-35秒台」の勝ち時計で推移してきたから、今回の1分33秒9で上位3頭が並んだゴールは、早くも2014年「桜花賞」の本番直前のリハーサルを思わせるハイレベルだったとしたい。

 最後は「ハナ、クビ」の決着。微差、小差の攻防に持ち込んだ3頭は、今年のメンバーに含まれた4頭の「無敗馬」のうちの3頭だったあたりも、決してたまたまではなく、レベルが高いからこそ生じたトーナメントの図式そのものだったように思える。

 勝ったレッドリヴェール(父ステイゴールド)と、2着ハープスター(父ディープインパクト)の着差は5センチとされる微差であり、ゴールした瞬間にはもうハープスターの鼻先が出ていたようにも見えた。大接戦で素晴らしい勝者レッドリヴェールが生まれたが、微差のハープスターにしても、陣営スタッフ・オーナー・騎手はともかく、ハープスター自身は別に敗者に転じたなどとは少しも思っていない。戸崎圭太騎手のレッドリヴェールも、川田将雅騎手のハープスターも同じように評価したい。

 レッドリヴェールは、6月1日の「阪神5R1600m」の新馬勝ちなので、この世代のJRAの新馬勝ち第1号であり、かつ、この世代初のGIレース勝ち馬。最初から「夢見るような…」成績を残し続けているから素晴らしいというしかない。さらに移籍してきた戸崎圭太騎手にとっても、移籍後の初のGI制覇である。

 新馬を上がり33秒3で差し切り(1分37秒9)、古馬でも追い込む脚などめったに使えなかった信じ難い不良馬場の札幌2歳Sを、上がり41秒3で差し切り、今度は1分33秒9の高速レースでGI制覇。418キロの小柄な馬体は、小さな少女そのもの。もっとふっくら大きくみせるように育ってほしいと思うが、父ステイゴールドの若い時代の3勝はすべて410キロ台であり、古馬になっても430キロ台になるとあまり動けず、7歳の暮れに香港で初のGI制覇に成功したときがやっと430キロだったくらいだから、おそらく最大の長所を受け継いだと思えるレッドリヴェールは、この先もふっくら見せたからといって、そのほうがいいという馬ではないのだろう。

 母ディソサード(父ディキシーランドバンド)が、なんと20歳時に生んだ10番目の産駒。5代母コスマーは大種牡馬ヘイローの母であり、ノーザンダンサーの母ナタルマの半姉でもある。レッドリヴェールは、名門の…など、平凡な形容は超越した筋金入りの牝馬である。

◆ここは勝者を称え、クラシックの舞台で再び勝負を

 人気のハープスターの勝利を信じて疑わなかった人びとには、それは口惜しい痛恨のハナ差だったことは想像に難くないが、「川田の進路の取り方が……」などといっては、来季の幸運を司る花の女神に、桜のタイトルも、オークス馬の称号も用意してあるというのに、「なんと欲の深い人間たちであることか」とそっぽを向かれかねない。

 こういうときには、勝った小さな牝馬レッドリヴェールを賞賛し、心から称える言葉を最初に探すくらいになりたい。いやいや、うちのハープスターはたしかに負けた。勝ったレッドリヴェールのレースぶりが素晴らしすぎたからですよ。われわれのハープスターには、まだちょっと物足りないところがあったかもしれない。桜花賞で改めて対戦しましょう。そのとき、これを見守る女神は、ハープスターのために準備してある「クラシックの冠」を、ほかの馬に移してしまおうかなどとは思わないのである。

 スタートは悪くなかった。休み明けながら、どの馬より落ち着いているように見えた。狭い馬群に突っ込んだのは賢明ではなかったかもしれない。しかし、これでどんな状況に置かれても能力が発揮できることが分かった。外に回ればもっと勢い良く直線は伸びたかもしれないが、でも、もし外に回って負けていたなら、「あんなところで外にぶん回って…」と評した自分がいなかったとは断言できないかもしれない。そのことを思うべきである。

 3着に健闘したフォーエバーモア(父ネオユニヴァース)は、先に抜け出したのが人気のホウライアキコだから、結果は先頭に立つのが早かったかもしれないが、さすがにそれは勝負のアヤ。巧みに好位のインをキープして流れに乗り、ホウライアキコを差して1分33秒9で初の阪神1600mを乗り切ったのだから、中身そのものは十分すぎるほどある。

 母エターナルビート(父ペンテカリス)は、天皇賞(秋)を快走した4歳牡馬ジャスタウェイの祖母シャロンの半妹。大幅な馬体重減の馬が多かった中、この馬は直前の長距離輸送でも減らず、一戦ごとに馬体重が増えているからたのもしい。

 ハープスターは負けても評価は少しも下がらない。フォーエバーモアは負けはしたものの、一気に評価が高まった。残念ながら負けて評価急落はホウライアキコ(父ヨハネスブルグ)か。

 父の産駒はその大半が早い完成度を長所とするからこそこういう2歳のGI向きであり、また、母方も決して無名ではなく底力を秘める名牝系。ここはがんばれると期待したが、陣営にもそういう気が強すぎたのだろう。あまりにきちっと仕上げすぎたか、パドックに入る前から入れ込んでいた。うまく流れに乗ったように見えたが、実際はムキになっていたのだろう。一度は先頭に立ったが、フォーエバーモアにかわされて力尽きた。もちろんこれで終了したわけではなく、これからも路線にとどまるが、桜花賞候補からは大きく後退した。

 クリスマス(父バゴ)は、前回の440キロ(14キロ増)が多分に余裕残りの馬体で、今回の422キロ(マイナス18キロ)は細くはないとされるが、個人的には腹が巻き上がってギリギリの状態にみえた。一転、追い込む形で0秒2差の4着。上がり33秒6は、ハープスターと並んで最速上がりだから素晴らしいが、どうも優れたマイラーのレースぶりとは異なるように思える。本当はもっと距離が延びたほうがいい気もするがどうだろう。

 人気の1頭レーヴデトワール(父ゼンノロブロイ)は、ちょうど1秒差の1分34秒9で9着。最初からずっと、外からプレッシャーをかけられ通しになった内枠が予想以上に応えたのだろう。4コーナーの馬群の中で、外からハープスターに並ばれた地点でもう余力がなかった。体つきは悪くない。春には巻き返してくるだろう。

 関東の伏兵マーブルカテドラルマジックタイムは5・6着。さして負けているわけではないが、惜しいという内容ではなく、ともに伸びて不思議ない位置にいたから、強敵がいっぱいいる今年は、もうひと回りのパワーアップが必要ということか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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