◆古き良き欧州血脈のホワイトマズル
ホワイトマズルは老いを知らない。今から21年前、1993年の伊ダービーで従来のレコードを2秒5も短縮して圧勝。同世代のコマンダーインチーフ(英ダービー)とともに、欧州で吹き荒れたダンシングブレーヴ旋風の立役者となった馬だ。
当時の日本はバブル期。ジャパンマネーの威力で父のダンシングブレーヴのみならず、この2頭も相次いで輸入されたが、コマンダーインチーフに比べるとホワイトマズルの種牡馬としての出足は鈍かった。
だが、コツコツと実績を積み上げ、GI勝ち馬がいつの間にか5頭になった。スマイルトゥモロー(オークス)、イングランディーレ(天皇賞・春)、シャドウゲイト(シンガポール航空国際C)、アサクサキングス(菊花賞)、ニホンピロアワーズ(ジャパンCダート)がそれだ。
対するコマンダーインチーフもGI勝ち馬は、アインブライド(阪神3歳牝馬S)、レギュラーメンバー(JBCクラシック)、マイネルコンバット(ジャパンダートダービー)の3頭出している。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いだった初期の勢いが長続きしなかった。2003年には中央競馬の重賞勝ち馬が途絶え、4年後の2007年に17歳で死亡している。
同世代のホワイトマズルが真価を発揮するのは、そのころから。シャドウゲイト、アサクサキングスがGIを勝ったのが、実はコマンダーインチーフが死亡した2007年だったのである。
種牡馬寿命の長さも特筆もの。一昨年の新潟2歳Sを勝ったザラストロ(現4歳)は19歳時の種付け。そろそろ終わりかと思ったら、20歳時の種付けで出した現3歳世代からも、バンドワゴン、シャドウダンサーといったクラシック候補を出してきた。
コマンダーインチーフがウサギなら、ホワイトマズルはカメ。同じダンシングブレーヴ産駒でありながら、まったく対照的な生きざまを見せている。
昔からステイヤーは競走成績と同じく種牡馬成績も、尻上がりに調子を上げ、地味ながら息が長いのが特徴。ホワイトマズルの5代血統表には、古き良き時代の欧州のステイヤー血脈が凝縮されている。種牡馬寿命の長さの秘密は、そのあたりにあるのかもしれない。