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展開に恵まれた逃げ切りではない/神戸新聞杯

  • 2015年09月28日(月) 18時00分


本番ではスローなら自分で行く形か

 新星リアファル(父ゼンノロブロイ)が鮮やかな逃げ切り勝ちを決め、10月25日の「菊花賞」3000mの有力候補の1頭に加わった。

 過去10年の菊花賞は、05年ディープインパクト、11年オルフェーヴル、12年ゴールドシップなどが代表する春のクラシック組が勝ったことが「5回」。一方、昨14年のトーホウジャッカル、08年オウケンブルースリ、06年ソングオブウインドなど、春の路線には乗っていなかった馬が勝ったケースが「5回」ある。

 また、直前のトライアル「神戸新聞杯」との強力な結びつきは知られ、過去10年の菊花賞の勝ち馬は、09年のスリーロールス(野分特別1000万勝ち)以外、神戸新聞杯を05年から順に「1着、3着、2着、3着、3着、1着、1着、1着、3着」した9頭である。

 今年は、春の2冠馬ドゥラメンテは骨折休養中で不在。日本ダービー3着のサトノクラウンは天皇賞・秋の路線を予定している。となると、もし、キタサンブラック(皐月3着、ダービー14着)の勝った先週の「セントライト記念」組がそれほど強力ではないとするなら、この神戸新聞杯を「1-3着」した3頭は菊花賞で非常に勝算の高い3頭と考えることができる。

 リアファルは、4分の3同血の兄クリソライト(父ゴールドアリュール)が、ジャパンダートダービーなどダートだけで6勝する馬であること。また、母クリソプレーズ(父エルコンドルパサー)の全3勝は芝でも、その全弟アロンダイトの全5勝がジャパンCダート快勝を含むダート戦であることから、この馬もデビュー後6戦はダートで【2-2-1-1】だった。

 初芝になった前回の1600万特別は、重馬場の2000mをスローで2分03秒4の逃げ切りだったため、今回の評価は2分されたが、いかに楽な単騎マイペースに持ちこめたとはいえ、3コーナー過ぎでは後続を引きつけてほとんど一団に近い形にしたあと、外回りの阪神の後半800mを「12秒0-11秒0-11秒4-11秒7」=46秒1-34秒1。

 逃げ切り、というより、後半のスパート勝負を、差してきたリアルスティールトーセンバジルとともに「上がり34秒0-1」でフィニッシュした押し切り勝ち。流れ(展開)に恵まれた逃げ切りではなく、4着以下はリアファルと差は直線で大きく広がっている。

 C.ルメールは騎手のキャリアもヨーロッパ育ちなので、ダートの短距離戦はともかく、めったに自身でハナに立つことはない。自信満々で、相手が行かないことを読んでいたハーツクライのドバイシーマクラシックなどを別にすると…。本番では、スローなら自分で行く形か。

 今年の菊花賞。まだ京都の芝も、先行タイプの動向も不明だが、リアファルの先行力が生きる形になる可能性は高い。曾祖母リーガルイクセプション(父リボー)は、1972年の愛オークス1着。英オークス2着。輸入された牝馬サンサンの勝った凱旋門賞の4着馬である。その牝馬にリヴァーマン→エルコンドルパサーを配されたのが、母クリソプレーズ。

 父ゼンノロブロイは、母の父マイニングも影響してかサンデーサイレンスの後継馬の中では、長い距離向きの産駒を送ることは少ないとされ、ゼンノロブロイ自身も、当時2000mの神戸新聞杯を3馬身半差で独走のあと、菊花賞はO.ペリエ騎乗で4着にとどまっている。しかしまた、充実期にはすばらしい仕事をするのがゼンノロブロイであり、2004年の秋、「天皇賞・秋→ジャパンC→有馬記念」を3連勝。ふつうは体調を維持して3戦することからして至難とされる秋の古馬3冠を、2000年のテイエムオペラオーに続いて制したタフなチャンピオンでもある。

 前出の2008年オウケンブルースリ(父ジャングルポケット)は、リアファルと同じ音無調教師の管理馬。神戸新聞杯3着から菊花賞を制した。調整にぬかりはない。放牧には出さない。

 リアルスティール(父ディープインパクト)の今回の最大のテーマは、あっさり勝つにこしたことはないが、本番に向けて「折り合い」の不安をクリアすると同時に、距離に対する心配も解消することだった。好スタートをあえて控え、馬群に入れて進んだ道中、少しだけ行きたがった瞬間もあるが、このスローで骨折明けのレースで見事に折り合い、最後の直線はリアファルを追って上がり「34秒0」で伸びた。追い詰めたとまではいえないが、本番を見すえる陣営が「たしかな手ごたえを得た」というように、後ろからきた馬に負けたわけではない。

 3代母は、ミエスク(父ヌレイエフ)。マイルを中心に当時の格付けのG1を計10勝もしたこの牝馬に、連続して世界の頂点の種牡馬ミスタープロスペクター、ストームキャットを配したのが、母ラヴズオンリーミー。スピード色が濃いのはたしかでも、適性や可能性が広がり、キングマンボなどの母となったから、ミエスクは名牝中の名牝となったのであり、現代のトップホースが距離3000mに心配があるのは当たり前。今度は研ぎ澄まして本番に臨みたい。

 3着トーセンバジル(父ハービンジャー)は、ここまで7戦2勝。条件賞金900万円。騎乗を依頼されたベテラン四位騎手(42)の役目は、なんとしても「3着以内に入って本番の出走権利を確保すること」。ひかえて各馬の力関係や動向を確認しつつ、なおかつレースの流れを読む四位騎手だから、スタッフと「きっと3着ではないか」、などと馬券検討を重ねたら、絵にかいたようにホントに紛れもない3着(7番人気)に持ってきた。

 母ケアレスウィスパーのきょうだいには、天皇賞・秋のトーセンジョーダン、ディープ産駒として早々と種牡馬になったトーセンホマレボシがいて、カンパニーや、中山GJのビッグテーストなど、日本で一番タフでさまざまな活躍馬がいるクラフティワイフの一族。成長カーブや、距離やコース選択まで、ちょっと難しい面を出してきた種牡馬ハービンジャーにとり、この一族の血は大きなバックボーンになってくれるかもしれない。距離適性うんぬん関係なしの候補となった。

 人気上位馬では、マッサビエル(父ハービンジャー)は、「1分15秒5-1分11秒2」=2分26秒7の超スローに乗り遅れ、最後はあきらめていた。さらに、また春に戻ってしまったティルナノーグ(父ディープインパクト)、7着でも見せ場の乏しかったアルバートドック(父ディープインパクト)、同じくタガノエスプレッソ(父ブラックタイド)の4頭は、賞金額から本番出走は可能ではあるが、このトライアルで凡走はかなりきびしい。本番では一気に評価落ちと思えるから、思い切ったレースをしたい。

 キロハナ(父ディープインパクト)は、心身ともにまだまだ頼りなかった。僚馬2頭(サトノラーゼン、ベルーフ)を先週のセントライト記念に回して、ここでキロハナの出走権(3着以内)を狙ったのではないかとされるが、キロハナがレベル一歩とされるセントライト記念に遠征するのがふつうであり、まだ遠征競馬に出る体力が備わっていなかったのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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