■『第3回引退馬フォーラム』にて上映された動画
※エイシンチャンプ回は、14日(木)に東京・新橋『GateJ.』で開催された『第3回引退馬フォーラム』内の引退馬ファンクラブ「TCC FANS」×netkeiba.comコラボコーナーをもとに構成しております。
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「本当にすごい馬…私が触っていて良いものか」
台風15号の影響が心配された9月1日、とあるGI馬を取材するため、千葉県長生郡一宮町を訪れた。車窓から九十九里浜一宮乗馬センターと書かれた看板が目に入った。すぐそばに九十九里浜があり、海辺での外乗も人気と聞く。
ここで乗馬として第二の馬生を送っているのが、福永祐一騎手を背に2002年の朝日杯FS(GI)で優勝したエイシンチャンプ、今年17歳だ。JRA賞の最優秀2歳牡馬にも選出され、その名の通り2歳チャンピオンとなった。
▲エイシンチャンプが第二の馬生を過ごす一宮乗馬センターへ
車から降りると空はどんよりとした厚い雲に覆われ、いつ雨が落ちてきてもおかしくない状況で、風も徐々に強まっていた。何とか取材中だけでも天気が持ってほしいと願いながら、敷地内に足を踏み入れる。
クラブハウスの向かい側にある繋ぎ場には馬が3頭いた。馬の傍らにいた女性に声をかけてみると、一宮乗馬センター代表の中村陽子さんだった。エイシンチャンプは、1番端に立っていると教えられた。
エイシンチャンプがここ一宮乗馬センターに来たのは2007年6月だった。「確かにオーラがあって、目の輝きが違いましたね」と中村さんは当時を振り返った。目の前に立つエイシンチャンプには独特の雰囲気がある。よく観察してみると思慮深そうな瞳もしていた。「可愛い」と気安く言ってはいけない。そういう雰囲気が漂っており、これがGI馬の貫禄なのかもしれないと思った。
▲17歳になったエイシンチャンプ その瞳の奥は今もなお鋭い
エイシンチャンプは、2000年3月23日にアメリカのColumbiana Farmで生まれた。父はMi Cielo、母はEishin Michigan、その父はManilaという血統だ。
平井豊光氏の所有馬として栗東の瀬戸口勉厩舎の管理馬となり、2002年6月15日に阪神競馬場のダート1200mの新馬戦でデビュー。鞍上は福永祐一騎手で1番人気に推されたが、タガノラフレシアの2着に敗れた。
初勝利は3戦目、9月8日の阪神競馬場のダート1400mの未勝利戦で、この時は四位洋文騎手の手綱によるものだった。その後は路線を芝に替え、ききょうS(OP)4着、デイリー杯2歳S(GII)4着、萩S(OP)2着、黄菊賞(500万下)2着と、着順的にももどかしい競馬が続いていたが、11月23日の京都2歳S(OP)では、のちの菊花賞馬ザッツザプレンティを3/4馬身差退けて2勝目を挙げた。
そして迎えた中山競馬場での朝日杯FS。これまで堅実に走ってきたエイシンチャンプだが、デビューから半年の間に8戦と使い詰めで、朝日杯FSが9戦目と2歳の若馬にしてはきついローテーションということもあり、朝日杯では8番人気と案外評価は低かった。
ちなみに1番人気は新馬、札幌2歳S(GIII)と2連勝中のサクラプレジデント、2番人気が翌年クリスタルC(GIII)に優勝したワンダフルデイズ、3番人気が2001年のエリザベス女王杯馬トゥザヴィクトリーの全弟で、自身も2003年のシンザン記念(GIII)、武蔵野S(GIII)、2007年の佐賀記念(JpnIII)と重賞3勝のサイレントディールだった。
レースは、1番人気のサクラプレジデントがあおり気味にゲートを出て場内がどよめく中、主導権を握ったのが3番人気のサイレントディール。エイシンチャンプは好発を決め、3、4番手を進んだ。4コーナーを回って粘るサイレントディールをエイシンチャンプが交わしたところで、内に進路を取ったサクラプレジデントが先頭に立ちそうな勢いでスルスル伸びてきたが、2頭の馬体が並んだところでエイシンチャンプがもうひと伸びして、クビ差サクラプレジデントを抑えてトップでゴールイン。前述した通り、2歳チャンピオンに輝いた。
▲後の強豪を退け、2歳王者に輝いたエイシンチャンプ(撮影:下野雄規)
明け3歳になったエイシンチャンプは当然のごとくクラシック路線を歩み、3歳初戦の弥生賞(GII)では2歳王者の貫禄を見せて優勝。3番人気に支持されて臨んだ皐月賞では、例によってうまくスタートを切ったが、7枠14番と外枠も影響して終始外めの6、7番手を進み、直線でも外からしぶとく脚を伸ばしてきたが、一騎打ちとなったネオユニヴァースとサクラプレジデントから3馬身半遅れての3着と残念ながら敗れてしまう。
続く日本ダービー(GI)では内々の5、6番手でじっくりと脚をためた。重馬場も考慮して、直線ではほとんどの馬が外めに振ったが、エイシンチャンプは逃げたエースインザレース以外ではただ1頭内に進路を取り、一旦2番手に上がりかけたが、結局外から伸びてきた馬に交わされて10着に沈んだ。
スタートがうまくて好位にスッとつけるセンスの良さと、最後の直線でゴールまで諦めずにしぶとく伸びてくる勝負根性。これが堅実な成績を収めてきた秘訣だったように思う。しかし3歳秋以降はすっかり勝ち星から見放され、エイシンチャンプらしさを発揮できないまま、2005年12月の鳴尾記念(GIII)11着を最後に大井競馬場の堀千亜樹厩舎へと転厩。その2戦目の大井記念(SII)でボンネビルレコード以下を下し、およそ3年3か月振りの白星を挙げた。
そののち、帝王賞(GI)8着やJBCクラシック(GI)6着など5戦を消化。2007年6月4日の隅田川オープン4着が引退レースとなった。2歳から7歳まで現役を続け、中央、地方通算41戦5勝の成績を残したエイシンチャンプには、乗馬としての第二の馬生が待っていた。
エイシンチャンプを乗せた馬運車が到着した先は、千葉県長生郡一宮町にある九十九里浜一宮乗馬センターだった。一宮乗馬センターには、大井競馬場など南関東の競馬場から引退した競走馬が来るケースが比較的多いという。エイシンチャンプもその中の1頭だったが「ファンの方などにチャンプについて聞いて、本当にすごい馬が来たのだなと…。私が触っていても良いのかなと思ったりもしました」(中村さん)。
▲「本当にすごい馬が来たのだなと…。私が触っていても良いのかなと思ったりもしました」(中村さん)
ここに来たばかりのエイシンチャンプのエピソードを中村さんに伺っている最中、ハエやアブを追い払うのにしきりに尻尾を振ったり、脚を動かしていたチャンプだが、途中からその動きが急に鈍くなったので、ふと顔を見ると瞼を閉じそうになっていた。時折、襲い来る睡魔に負けて脚の力が抜けてガクッとなる場面もあり「寝るな、寝るな」と中村さんに叱咤激励されて現実に戻る…それを何度か繰り返した。G1馬独特の雰囲気や貫禄、そしてプライドをエイシンチャンプからは感じ取っていただけに、寝落ちしそうになるギャップがまた魅力的であった。
馬装されたエイシンチャンプの背には、いつも騎乗しているスタッフの村岡達夫さんが跨る。馬場に入って、朝の運動が始まった。常歩、速歩と風が徐々に強まってきた中で、エイシンチャンプは真面目に黙々と動いた。
「最初の2、3年は馬場の中を思いっきり走っちゃったことがありますね。やはり競馬を思い出すのか、スピードが速くなっちゃうんですよね。村岡さんもビューンとやられていました(笑)」と中村さん。そのエイシンチャンプも今年で17歳。性格もだいぶ丸くなり、一宮乗馬センターでは会員さんからの人気も高いらしい。エイシンチャンプについて、さらに深く知りたくなった。
▲エイシンチャンプをさらに知りたくなった
(次回につづく)
◆プレゼントのお知らせエイシンチャンプの蹄鉄(乗馬センターでのもの)&福永祐一騎手の直筆サイン入りレース写真のセットを抽選で2名様にプレゼントいたします。
▲エイシンチャンプの蹄鉄&福永祐一騎手の直筆サイン入りレース写真のセットを2名様(※蹄鉄の色はお選びいただけません)
※応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました!
※九十九里浜一宮乗馬センター
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