キタサンブラックら大物と差のない時計に
天皇賞(春)を制したテーオーロイヤル(c)netkeiba
1番人気に支持された6歳牡馬テーオーロイヤル(父リオンディーズ、その母シーザリオ)の完勝だった。長距離戦のレベルは、短-中距離戦以上に走破タイムが示すことが珍しくないとされる。テーオーロイヤルの記録した「3分14秒2」は、
2017年キタサンブラックの「3分12秒5」レコード
2006年ディープインパクトの「3分13秒4」
2012年ビートブラックの「3分13秒8」
2007年メイショウサムソンの「3分14秒1」
2013年フェノーメノの「3分14秒2」
フェノーメノと並び天皇賞(春)史上5位タイの記録。芝コンディションの差や、ペースの違いは大きいが、キタサンブラック、ディープインパクト…などのビッグネームと差のない3200mの時計として記録に残ることになった。
伏兵マテンロウレオ(父ハーツクライ)が先導したレース全体のバランスは、前後半の8ハロン「1分36秒3–1分37秒9」=3分14秒2(レース上がり35秒3)。2周目の坂を迎えるあたりでラップが落ちかけたが、大半の年に見られるハロンラップ「13秒台」は一度もなく、好タイムに結びついた。テーオーロイヤルは終始好位を追走し、最後は直線の入り口でもう先頭に並びかけている。完全に実力勝ちである。
今年に入って3400mの「ダイヤモンドS」、そして3000mの「阪神大賞典」に出走のローテーションは、前出ビートブラックと同じだが、近年ではまったく型破りなローテーションだった。それを3連勝したのだからすごい。
まだ未完成な3歳、4歳時は、狙いのビッグレースに的を絞り、活力のロスや成長を妨げないスケジュールが大切だが、テーオーロイヤルのように古馬になって完成期を迎えたとき、頂点をきわめるためにはさらにパワーアップを図ることになるのだろう。
4歳末から骨折で1年近くも休養してカムバック。右後肢にはいまもボルトが入っているとされる。こういうタフな不屈のチャンピオン誕生を心から祝福したい。秋には11月のメルボルンC(芝3200mの豪GI)挑戦も視野に入っているとされる。
2着に突っ込んだ5歳牡馬ブローザホーン(父エピファネイア。その母シーザリオ)も見事。2013年の菊花賞を5馬身差で独走したエピファネイアの産駒は、比較的早い時期から活躍するケースが多いが、ブローザホーンは2歳秋にデビューし、3歳の夏まで8戦も未勝利の時代があった。未勝利を脱したレースから、ここまで[6-2-2-1]の上がり馬となったから素晴らしい。今回が初のGI挑戦だった。前半に位置を取れなかったこともあるが、外を回って上がり最速の34秒6。3分14秒5で乗り切った天皇賞(春)の快走にフロックなどあるわけもなく、まだ5歳の春。これから一段の飛躍が期待できる。
7歳牡馬ディープボンド(父キズナ)はいつも以上に積極的なレースを展開。直線の中ほどでは、天皇賞(春)を4年連続2着の快記録になったかと思えた。勝ち抜き制度がなくなった1981年以降、天皇賞(春)に3回以上挑戦した馬は、4歳から11歳まで8回も挑戦したタフガイの象徴トウカイトリック(父エルコンドルパサー)を筆頭に40頭近くもいるが、4回も馬券圏内[0-3-1-0]に好走したのはディープボンドが史上初めて。
2番人気の4歳牡馬ドゥレッツァ(父ドゥラメンテ)は4コーナー手前で急失速して止めるように15着。前半にかかり気味な印象を与えるほど先行し、道中で息の入らない展開が厳しかったか、あるいは故障発生かと思えたが、レース後、キャロットクラブのホームページで「熱中症の疑いがある」と発表された。立て直して巻き返したい。
3番人気の5歳牝馬サリエラ(父ディープインパクト)は、パドックでは決して悪くは映らなかったが、正攻法の好位追走は想定した流れより厳しかった。テーオーロイヤルと接戦のダイヤモンドSは前半に13秒台のラップが3回もある楽なペースだった。前走比8キロ減の馬体も小柄な牝馬だけに辛かったのだろう。
ダービー馬タスティエーラ(父サトノクラウン)の7着も案外。これで、皐月賞馬も、ダービー馬も、菊花賞馬も、その後3頭ともに未勝利となってしまった。3頭ともに浅いキャリアでタイトルを獲得して素質十分を思わせた馬。4歳世代のレベルうんぬんではなく、今回4着に押し上げた4歳牡馬スマートファントム(父ハービンジャー)を含め、上位を占めた馬は、最初はエリート路線ではない叩き上げタイプだった。まだ未完成な時期のタイトル制覇が近年の流れだが、大切な成長期での厳しいレースは、キャリアの浅い馬には失うモノもあるのではないかと思わせるところがある。アーモンドアイや、イクイノックス、ディープインパクトは、例外のスーパーホースである。