アスコリピチェーノの精神力も光った
NHKマイルCを制したジャンタルマンタル(撮影:下野雄規)
大きく明暗の分かれるシーンはあったが、わずかの差で2番人気にとどまった牡馬ジャンタルマンタル(父パレスマリス)の圧勝だった。
皐月賞を激走したあとの中2週。「疲れはない」と強気だった陣営にも本当は否定できない不安はあった。「返し馬で少ししんどいと感じる部分はあった(川田将雅騎手)」。
しかし、絶好のスタートから前後半「46秒3-46秒1」=1分32秒4(上がり34秒1)の、決して厳しくはないペース(前半1000m通過58秒3)にスムーズに乗ったジャンタルマンタルには、道中の不利もロスもまったくなかった。
川田騎手は、ベストの距離と思える1600mなら、「日本で一番強いマイルの馬になれる可能性がある」と最大級の賛辞を贈っている。必ずしもベストとはいえないスケジュールを克服し、これだけのレースができたことに対し、ジャンタルマンタルの未来に向けた何よりの賞賛だろう。
比較的楽なペースだったとはいえ、後半3ハロンは「11秒4–11秒2–11秒5」=34秒1。これはレースの前半3ハロン「34秒3」より速く、抜け出したジャンタルマンタル自身の上がりは33秒9。目一杯のマイル戦ではなかったことにも通じる数字だ。
一方、2馬身半差の2着だった1番人気の牝馬アスコリピチェーノ(父ダイワメジャー)も、実際には驚くほど強かった。残り400mすぎの直線で、みんな楽な流れだったから大半の馬に余力があり、少しでもコースロスのない内を狙った馬が多かった。
逃げたキャプテンシー(父モーリス)を交わしたマスクオールウィン(父ドレフォン)が脚をなくし内によれたのが発端。直後にいたアスコリピチェーノがそれを避けるように内に進路変更しながらつまずき、キャプテンシー、さらに内のラチ沿いにいたボンドガール(父ダイワメジャー)の進路がなくなってしまった。
制裁の採決は、マスクオールウィンの岩田康誠騎手、アスコリピチェーノのC.ルメール騎手にともに3万円の過怠金が課された。採決の判定にはきわめて微妙なところがあるのは多くの関係者やファンに共通の見解だが、失速しかかっていたマスクオールウィンはそのまま15着に後退。不利を受けたキャプテンシーは盛り返す余力はなく断念して18着。ラチ沿いで外からぶつけられたボンドガールもあきらめて17着。
ところが、ぶつかってつまずいたアスコリピチェーノは体勢を立て直してインに進路を取ると、そこから猛然と伸びて前を行くロジリオン(父リオンディーズ)を捕らえ、2着に盛り返してみせた。あの不利があって2着に突っ込んだアスコリピチェーノは素晴らしかった。前回より一段と馬体を大きくみせ、牡馬をしのぐ迫力にあふれていた。
ケンタッキーダービー3着のフォーエバーヤングも、外のシエラレオーネに激しく寄られて再三馬体が接触する不利があまりに大きかったが、自身も制裁の対象となったとはいえアスコリピチェーノの勝負をあきらめない精神力はすごかった。
前半は好位のインでジャンタルマンタル、アスコリピチェーノをマークする形で進んだロジリオンは直線に向いてのコース選択が絶妙。馬群の密集したインを避け、ジャンタルマンタルの外に回って不利を受けなかった。1600mは一戦だけ。4戦も連続して1400mに出走していたので10番人気だが、絶好のデキで得意の東京で快走した。
4着に突っ込んだゴンバデカーブース(父ブリックスアンドモルタル)は、好仕上がりではあったが、順調さを欠いてここは休み明け。まだキャリアは2戦だけ。それを考えると、順調な成長カーブを描いていたなら、もっと差がなかったろう。斜行してJ.モレイラ騎手は制裁を課せられたが、勝負どころで反応が鈍く鞍上は焦っていた。
好馬体が光ったアルセナール(父エピファネイア)も、まだ今回が3戦目。休み明けでいきなりGI。出遅れは仕方がない。後方追走とはいえ、上がり33秒8は最速だった。
7着ディスペランツァ(父ルーラーシップ)は、前出ゴンバデカーブースに前に入られた不利が大きい。伏兵シュトラウス(父モーリス)は、まったく折り合えなかった。