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桜花賞

  • 2007年04月09日(月) 13時00分
 過渡期のこととはいえ実際はグレード外となって初の日本のクラシック。さらに新しい阪神コースになって初の桜花賞。しかし、例年以上のハイレベルとされる「3強」が揃い、白熱の手に汗握る好レースが期待された。

 まず、個々の注目馬のレース内容は別に、レースの終わった瞬間、残念なことに興奮や驚嘆は気抜けするほどに乏しかった気がする。記者席も放送席もみんな静かだった。素晴らしい能力を持った馬が何頭もいたはずなのに、あくまでレース全体としてのことだが、あまりにも見どころの少ないマイル戦で、期待のクラシックとすれば平凡な内容すぎたためだろう。迫力のせめぎあいも、力のぶつかりもなかった。

 これは断然人気のウオッカが負けたからだろうか。もちろんそれはあるが、レースは前半の半マイルが「47.8秒」という未勝利戦以下のスローペースで、1000m通過はなんと「59.8秒」。新阪神の外回りはペースが上がらないことが多いとはいえ、また、断然の人気馬がいる年ほどスローになるのは競馬の決まったパターンとはいえ、近年の桜花賞ではありえない超のつくスローペースの展開。そのまま各馬の動きはどこにもなく、オープン馬のことだから直線に向くとやおら「10.6」秒、そして最後が11.7秒。正味、最後の300〜400mの地点から、先行のダイワスカーレットがスパートし、一度はウオッカが並びかけようとしただけで、歓声が上がったのは、離れた3着争いが接戦になって画面に映ったときだけだった。

 スローペースの展開はそれはそれで趣も見どころもあるものだが、前半の1000m通過が59秒台の後半だったのは、極悪の不良馬場だった1983年、シャダイソフィアが1分40秒5で勝った年以来のこと。桜花賞の古典の世界のことだ。新阪神とはいえ、近年の桜花賞では信じ難く特殊な流れに陥った今年、各馬のレース内容と、このあとの展望はむずかしい。こんなペースなのだから、たとえ形作りでもいいから伏兵陣はいつものように自分のレースをすべきだったろう。せっかく桜花賞にまで駒を進め、競馬もしなかったのでは、陣営だけでなくファンとしてもあまりに残念というしかない。レースの流れがこわれると、力を出し切れない馬が続出してしまう。

 まず、3強とされた中でアストンマーチャンは、レース前のパドックから激しくイレ込んで、スタート直後からかかり通し。途中から行かせる形になったが、失速は仕方がないだろう。3歳牝馬の春の難しさも重なった。快勝したダイワスカーレットはこのペースだから少しかかり気味になった瞬間、気分良く先行させ、相手にとらわれることなく自身の能力発揮だけにたちまちテーマを絞った。楽に先行して、この馬自身の1000m通過は60.1秒。そこからの後半3Fを、「10.6秒」のスパートの1Fを含めていともたやすく33.6秒でまとめている。力通りというべきか、結果としてまともにスムーズに能力を発揮できたのはこの馬だけだったともいえる。

 問題は、ウオッカ。敗因はいくつも重なっている気がするが、大きな点はまず、前でかかっているアストンマーチャンも、行きたがっている形のダイワスカーレットも見える絶好の位置。これが落とし穴だった。だが、直線に向くまで歩くようなペース。スカーレットをあまりに気分良く先に行かせすぎた。自分が楽なら、相手はもっと楽なマイペースだった。スパートして並ぼうとしたときの1Fは10.6秒。スカーレットの方も余力は十分。並ぶつもりがスカーレットに突き放されるような形になって、ウオッカは「ダメだ」の素振りでよれ、もう一回伸びて差を詰めようとしたが、ゴール寸前はギブアップ。頭を上げて自身があきらめてしまった。この負け方はこの後を考えると良くない。また結果論ではなく、ローテーションも失敗だろう。2月のエルフィンSなどだれも使うとは考えてなく、必ずしもそういう調教過程ではなかったフシもある。そのへんの経緯は知る由もないが、だから、楽にみえたチューリップ賞もウオッカ自身にとってはそんなに楽なステップではなかったのだろう。

 能力の差がはっきり出て、ダイワスカーレットの方が明らかに上だった、とは認めたくないところに陣営の大きな無念と後悔がある気がする。オークスで巻き返したいが、つぎは2400m。ウオッカは本当は1600mのほうが合っているマイラーではないか、そんな見方にも反発しなければならなくなった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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