「新潟県競馬」の廃止が決定的となった。来年1月3日が最後の開催。数年前からささやかれていたイヤな噂がいよいよ現実のものになってしまった。昭和41年に競馬組合が設立され、以後35年の歴史があるから、むろんその影響とショックは軽くはない。現在新潟県競馬には、調教師、騎手、厩務員など、およそ800名の関係者が従事していると聞く。なんともやるせない。地方競馬全体としても深い危機感が漂ってくる。
55億円の累積赤字。ことは大半が「経営問題」だから、日々の予想に明け暮れている筆者などには手に余る。競馬自体の話ではなく、むしろギャンブルと産業、その経済構造とかに論点が及ぶ。が、一つだけ書いておきたい。一つの競馬場が閉鎖される事実は、流行らないパチンコ店がつぶれるのとはわけが違うということ。なぜなら競馬には競走馬(サラブレッド)の生産が根底にあり、その意味でJRAだろうが、TCKだろうが、供給源を同じくする共同体だということ。中津、新潟と倒れ、危機を伝えられる高知、佐賀、まして北海道などが行き倒れれば、生産頭数そのものが激減する。「強い馬作り」「国際化」だのという理想も一気に吹き飛ぶ。
ごく素朴に思う。こうなる前、もう少し血の通った「相互扶助」ができなかったか。ウイークデーの開催、競走馬のレベル、注目度…。この不況下、ファン動員力という点できわめて分が悪い地方競馬場。それでも今回新潟の場合なら、施設(レーストラック)の整った新潟競馬場でレースができるという救いがあった。そこでJRAがなぜ芝コースの使用を認めなかったか。またそれを勧め、サポートしようとしなかったか。現実に今年は直線千メートル、注目の新コースもできている。競走馬のレベルはどうあれ、それなりに番組が多彩になり充実すれば、少なくともファンを呼ぼう、そういう姿勢はアピールできた。現実には何もなかった。JRAは冷やかに静観し、出し惜しみという以前に、そういう発想そのものが存在しない。当の県競馬組合は、おそらくハナからあきらめていたのだろう。
11月7日、新潟競馬場「朱鷺大賞典」。昨年から統一G3として生まれ変わり、とりわけ今年は好メンバーが顔をそろえた。「朱鷺」といえば新潟。他の競馬場で名乗れるレースでもない。さて来年はどうなるのか。むろんレース名の話だけではない。「JBC」との関連、さらに「JCダート」「東京大賞典」をにらめば、本来重要な一戦になるはずだった。ことは日本の競馬、存続の問題に深刻に関わってくる。違うだろうか。
朱鷺大賞典(サラ3歳以上 別定 1800m 良)
◎(1)トーホウエンペラー 56菅原勲 1分50秒4
△(2)エビスヤマト 56渡辺正 1/2
△(3)スナークレイアース 56和田 3
〇(4)イシヤクマッハ 56本田 1
(5)ゼンノモトーレ 56森下 3/4
……………………………………………………………
(6)スマートボーイ 57武豊
▲(7)レイズスズラン 57岡部
単180円 馬複3370円 馬単3750円
トーホウエンペラーは、ひとこと横綱相撲だった。道中3番手、逃げるスマートボーイを馬なりで射程圏。直線中ほど、GOサインを待ちきれない勢いで先頭に立ち、そのまま力強く押し切った。着差こそ1/2馬身だが、早々と独走になり、人馬とも最後流すような形になったため。1分50秒4の堂々たるレコード。結果的には冷や汗でも、勝ちっぷりは文句なしに強い。次走は「浦和記念」「東京大賞典」を両天秤にかけるとのこと。個人的には、すでにメイセイオペラに並ぶところまできたというイメージがある。どうみても王道を歩むべき。ぜひ後者の選択で、地方競馬のグランプリを盛り上げてほしい。
2着エビスヤマトは、それこそ神がかり的な豪脚だった。大外一気、上がり推定36秒ソコソコ、他馬が止まってみえる伸び。これまで全国区では常に掲示板レベル、ひと息足りない馬だった。渡辺正騎手、赤間亨調教師とも、新潟県競馬では、その人あり…という存在。ここで意地と執念が吹き出した、やはりそうも考えたくなる。もっともエビスヤマト自身は、このあと大井・小林分場へ移籍がすでに決まっているらしい。むろん個性派として楽しみはある。 スナークレイアース、イシヤクマッハは、特に不利もない展開で、それぞれ3、4着。ともにJRA仕様の馬場に限り、ダート巧者ということか。
☆ ☆ ☆
同日浦和競馬場の「埼玉新聞杯」は、ロイヤルエンデバーの完勝だった。終始強気の先行、3コーナーで先頭に立ち、直線並ばれてもうひと伸びした。道中デリケートワンのまくりなどもあり、けっして楽ではない展開。着差1馬身、千九1分59秒3も平凡といえば平凡だが、ひとまずここを勝ち抜いたことに重みがある。川崎から転厩初戦。トレードの事情はさておき、デビュー3年目で初重賞勝ちを果たした繁田騎手。「馬にとっても自分にとってもチャンスが巡った…」。その通りの結果を出したことが素晴らしい。父ラムタラ。輝くような栗毛の馬体で、生まれながらにスターホースの雰囲気を持っている。現実に2歳時はトーシンブリザードと鼻差の勝負を演じている。軌道に乗った今後、トーホウエンペラー同様、王道を歩める馬だ。
埼玉新聞杯(サラ3歳以上 別定 1900m 稍重)
○(1)ロイヤルエンデバー 54繁田 1分59秒3
△(2)ゴールドマイニング 58一ノ瀬 1
◎(3)アブクマドリーム 56石崎隆 1.1/2
(4)シゲノキューティー 56佐藤隆 1.1/2
△(5)ダービーヒルズ 54細川 1/2
………………………………………………………………
▲(10)デリケートワン 58張田
△(11)リマンドマッハ 56堀
単150円 馬複1770円 馬単1710円
ゴールドマイニングは追えば追っただけ伸びる馬。持ち味は十分に出している。とにかくこの春から充実めざましく、南関東グレードなら展開ひとつでチャンスが浮かぶ。なんとも運がないが、今日はハンデ58も厳しかった。アブクマドリームは道中馬混みの中でどこか不完全燃焼というレースぶり。「2番手から抜け出す競馬をしたかったが…」と石崎隆騎手。さすがの名手も、この馬のここ2戦はリズムの悪いレースをしている。それでも馬体のハリ、雰囲気などは依然として申し分ない。おそらくフィーリングの問題だろう。大事に使われている限り、またすぐに巻き返しのシーンも描ける。