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週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2002年04月03日(水) 00時00分
 イギリスが悲しんでいる。

 国民の信頼が厚い英国王室の中でも殊更に人気の高かったエリザベス皇太后の御逝去(3月30日、101歳で永眠)に際し、英国の民衆は、深い惜別の念に包まれている。

 イギリスの競馬は、王室の庇護の元に発達したスポーツであり、その成り立ちと王室には,切っても切れない縁がある。英国における王室と民衆の距離は、精神的にも物理的にも、我が国の皇室と一般市民の間にあるものとは比べ物にならぬほど近いものがあるが、ことに競馬ファンは、嗜好を共用する仲間意識にも似た感覚を有している。私自身も、英国の競馬場の観覧席で、ふと振り向くと身近に王族がいたという経験を少なからずしており、日本の皇室のような、遠い異次元の世界に住んでいる人たちという印象はない。

 そんな、庶民にとって近しい存在である王族の中でも、殊更に親しみやすいキャラクターだったのがエリザベス皇太后で、競馬場に足繁く通われ、馬とホースマンに接するお姿は、御高齢になられてもからも変わらずに見られた、英国の競馬場における風物詩であった。

 エリザベス皇太后にとって最後の競馬観戦は,昨年12月7日。馬主として最も多くの勝利に遭遇したサンダウン競馬場であった。ここで、愛馬ファーストラブが出走するノーヴィル・ハードルを御覧になり、ファーストラヴは期待に見事に応えて勝利したのだった。ちなみに、そのファーストラヴが、3月8日に同じサンダウン競馬場のノーヴィス・ハードルを制したのが、馬主エリザベス皇太后にとって生前最後の勝利となり、この時はさすがに競馬場に出掛けられなかった皇太后は、テレビの生中継でその模様を見届けられたという。

 こういう御方の存在があってこそ、英国の競馬が発展してきたという、その象徴的な人を亡くし、英国の競馬サークルは今、深い悲しみに包まれている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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