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田中博康騎手インタビュー Part2

  • 2012年04月09日(月) 12時00分
技術の向上と精神力強化のため、フランスでの長期武者修行を決意した田中博康騎手。単身、異国の地フランスへと旅立ちました。しかし、待っていたのは日本とは180度違う競馬の世界。調教場、調教の在り方から、騎手という職業までが、日本とはまったく違うものでした。(4/2公開Part1の続き)


『向うの騎手は何でもやる』

赤見 :向こうで最初に入った厩舎が、シャンティーのミケル・デルザングル厩舎。クィーンスプマンテでエリザベス女王杯を勝った時に、4着になったシャラナヤを管理している調教師ですよね。なんだか、不思議な縁ですね。


おじゃ馬します!

凱旋門賞に挑戦したメイショウサムソン

田中 :そうなんです。メイショウサムソンが凱旋門賞の時に入った厩舎でもあるんですよね。向こうでお世話になった小林智調教師がアシスタントをされていた厩舎で、それで紹介してくださったんです。そういう面でも小林先生にはかなり助けていただきました。

赤見 :そうだったんですね。向こうでのコミュニケーションはフランス語、と英語?

田中 :そうですね。英語は中学校高校でやったことを思い出しながら。僕、国際高校の外国語科だったので。

赤見 :そうか、競馬学校に入るまで高校に通っていたんですもんね。フランス語は事前に勉強してから行ったんですか?

田中 :勉強はしたんですけど、ほとんど役に立たなかったです。それで、向こうで先生をつけて勉強しました。そのお陰で、日常会話には困らなかったです。

赤見 :ちなみに、最初に覚えた単語は?

田中 :ボンジュール!

赤見 :それ、知っています(笑)。

田中 :あはは(笑)。あとは、サバとか。

赤見 :サバって何ですか?

田中 :サバって、「元気?」とか「大丈夫?」とか。向こうでは「ボンジュール」の後に「サバ?」って絶対に聞くんです。1日に何回聞くか分からないくらい。

赤見 :そうなんですか。言葉の違いって面白い。それで、実際にフランスに行ってみて、日本との違いでいろんな驚きがあったと思いますが、一番感じたことっていうと?

田中 :そうですね、なんか、別世界だなって。やっぱり、日本のトレセンしか知らなかったので、不思議な感じでしたね。

赤見 :システムも違いますよね。日本ならJRAがトレセンの中に厩舎を用意してくれるけど、向こうは違うんですもんね?

田中 :違います。あの、森が3つあって、そこが調教場で、その脇に厩舎があるんです。一番有名なのがエーグル調教場で、そこは名門厩舎が集まっていますね。デルザングル厩舎もそこにありました。

赤見 :一度イギリスのニューマーケットに行ったんですけど、厩舎が「お城!?」っていうような造りだったんです。で、調教も丘を走っていて。あれは気持ち良さそうだな〜って思ったんですよね。

田中 :ああ、ニューマーケットはそうですよね。僕も1回乗りました。


おじゃ馬します!

調教に乗ったなんて「うらやましい」

赤見 :うわっ、うらやましいっ!!

田中 :あそこは気持ちがいいですね。でも、(武)豊さんもおっしゃっていたんですけど、調教場はたぶんフランスが世界一だと思います。

赤見 :それはどんなところが?

田中 :ん〜、それはもう、行ってみていただいて!

赤見 :悔しい〜っ(笑)。

田中 :あははは(笑)。というか、スケールが違いすぎて説明しきれないです。ニューマーケットも自然の中なんですが、乗っていて「日本みたいだな」って思ったんです。坂路が3つあったのかな。そこを2本上ったり、似ているんですけど、フランスはちょっと違うんですよね。

赤見 :そうなんですか。向こうってラチがないから、コースも「だいたいこの辺」っていう感じですよね(笑)。

田中 :そうそう(笑)。馬場はチップもポリトラックもあって、結構管理されていているんですけど、天気には左右されやすいです。で、「馬場が悪いから今日は乗らなくていいよ」とか「今日はハッキングで終わり」とか、そういう適当なところもあって。「今日は祝日だから2頭しだけ。あとは休馬!」とか(笑)。

赤見 :え〜、なんかアバウト(笑)。向こうでは厩舎作業もやっていたんですよね。生活スタイルはどんなふうだったんですか?

田中 :朝の開始時間は日本とほとんど変わらないんです。朝5時くらいに厩舎に行って、寝藁をあげて、馬装をして馬に乗って、終わったら手入れをして。最初の厩舎では、それを4頭か5頭やっていました。

赤見 :寝藁と手入れなんて、久々じゃないですか?

田中 :そうですね。あとはやっぱり馬装が…。日本では、競馬の鞍は馬装しますけど、調教の鞍はしたことがなかったですから。

赤見 :そっか。そもそも、騎手が下で馬と接することがないですもんね。


おじゃ馬します!

馬との距離が縮まりました

田中 :そうなんです。だから競走馬って、下にいると怖いものでした。でも向うでは曳いたし馬運車にも乗せたし。そういうところの距離が縮まったかなと思います。

赤見 :馬運車にも乗せたんですか?

田中 :はい。向うのジョッキーはすごいですよ。競馬場によっては、競馬前にジョッキーが馬を歩かせて前運動をさせて、それから自分で鞍を付けて競馬に乗って、競馬が終わったらクーリングダウンも自分でやって。それで、馬運車に乗せて自分で運転して帰るという。

赤見 :すごくセルフ(笑)。

田中 :そう。すごくセルフな感じです(笑)。向こうでは何でもするのが当たり前なんです。「ジョッキーってこんなに泥臭いんだな」って思いました。ジョッキーって、向こうではなんら特殊な職業ではないですしね。だからお客さんとの距離も近いというか。

赤見 :そうそう、びっくりしたのが、競馬が終わって鞍を持ってお客さんの間を歩いて帰っていくじゃないですか。しかも、全然ヤジも言われないですし。ああいうところも日本の競馬とは違いますよね。(Part3へ続く)


◆田中博康騎手と一問一答
Q.海外に行かれて外国語が堪能になったと思います。日本に来ている外国人騎手と、競馬の時に会話はしますか?

田中 :会話はしますね。クリストフ(ルメール)とか。

赤見 :おぉ〜、かっこいい。何を話すんですか?

田中 :えっ、まあ、普通の会話です。「おはよう」から始まって、「今日はどの馬がいいの?」とか。クリストフはしゃべりやすいですよ。

赤見 :外国で話す時って、必死になって伝えようとするから頑張れるんですけど、そこに日本の方が入った時に照れちゃったりしません?

田中 :あっ、それ分かります。フランスにいた時は、間違えてもいいからとにかく何でも話すようにしていたんですけど、ジョッキールームとかだと、たしかに構えちゃうところはあります。日本だとちょっとハードルが上がりますね。

Q.最高の贅沢は何ですか?

田中 :最高の贅沢、おおっ〜、何ですかね?

赤見 :これをしている時がたまらん! っていう。

田中 :それはもう、競馬に乗っている時が「たまらん」。

赤見 :おっ、何て優等生発言(笑)。

田中 :いやいや。でも本当に、競馬に乗れることはすごいことですよ。フランスに行って、より思うようになりました。重賞に乗っている、GIに乗っているって、見ていてもうらやましいじゃないですか。それを自分もできたらいいですよね。


◆田中博康
1985年12月5日、埼玉県出身。競馬学校22期生、同期は北村友一や的場勇人ら。06年3月、美浦・高橋祥泰厩舎からデビュー(現在フリー)。同年の勝利は4勝に留まるも、翌07年には44勝と飛躍。09年6月、シルクメビウスのユニコーンSで重賞初勝利。11月のエリザベス女王杯ではクィーンスプマンテで逃げ切り、GI勝利同期一番乗りを果たした。通算成績は109勝、うち重賞3勝(4月6日現在)。


◆予告
単身、異国フランスでの生活をスタートさせた田中博康騎手。しかし、事前に分かってはいたものの、騎乗機会を獲得するのは思った以上に難しかったと言います。「これはピンチだな」とまで思い詰めた矢先、ひとつのチャンスがやって来ました。次回の公開は4/16(月)、お楽しみに!

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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