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オルフェーヴル「あの」瞬間

  • 2012年10月12日(金) 12時00分
 凱旋門賞で負けはしたが、オルフェーヴルが出走メンバーで最も強いレースをした。日本最強馬どころか、世界最強馬の走りであったように思う。

 26年前の1986年、後方から矢のように伸びて勝利した、あのダンシングブレーヴの走りを思い出した。同年の欧州年度代表馬に選ばれたばかりでなく「1980年代を代表する欧州最強馬」と称えられた名馬である。

 オルフェーヴルはそのダンシングブレーヴと同じ瞬発力を、ぬかるんだ重馬場で見せた。にわかに信じがたい光景だった。その想定外の切れ味が最後は仇となったが、いつもいつもこの馬の走りには、競馬キャリアの長い人間ほど驚かされる。

 気象庁の大雨警報ふうに言うなら「今までに経験したことのない走り」を見せる。阪神大賞典で大逸走し、外ラチぞいの最後方に下がって故障かと思いきや、そこから猛然と追い込んで、あわや勝とうかという走りを見せた。こんなレースをした馬は、今までに見たことがない。

 凱旋門賞も競馬キャリアの長い人ほど、日本馬が勝つのは容易ではないことを知っている。だが、力のいる重馬場を後方から伸びて、前を行く馬を瞬時に置き去りにした。

 確かに今年のメンバーは例年に比べて小粒だった。とはいえ、惨敗の歴史しか知らぬ私たちにとっては、和風色の濃い血統背景を持つオルフェーヴルが、こんなレースをすることじたいが信じがたい。

 勝利を確信させておいて、最後の最後に伏兵にやられるあたりは、いかにもステイゴールド産駒らしいが、これでステイゴールドは産駒から凱旋門賞の2着馬を2頭出したことになる。

 種牡馬入りした当初は大手の牧場、馬主が見向きもしなかったステイゴールド。日本は昔から、凱旋門賞馬をありがたがって買ってくる。しかし、当の日本に凱旋門賞に向く血統があったとは、何とも皮肉な話だ。

 オルフェーヴルには来年も現役を続行し、再度挑戦してほしいと思う。

血統評論家。月刊誌、週刊誌の記者を経てフリーに。著書「競馬の血統学〜サラブレッドの進化と限界」で1998年JRA馬事文化賞を受賞。「最強の血統学」、「競馬の血統学2〜母のちから」、「サラブレッド血統事典」など著書多数。

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