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欧州競馬を支えるカタールの影に日本

  • 2013年09月20日(金) 12時00分
 オルフェーヴルもキズナも、目標はあくまでも凱旋門賞。「前哨戦は無理して勝つ必要はない」と先週のコラムで書いたら、2頭とも勝ってしまった。

 楽勝したオルフェーヴルは、これでフォワ賞2連覇。早くも単勝3-5倍の1番人気に祭り上げられている。初物づくしでニエル賞を勝利したキズナも、戦前の15-17倍から6-9倍に急上昇。きわどい勝利だったが、短頭差2着に退けたルーラーオブザワールドは、今年の英ダービー馬なのだから勝利は高く評価できる。

 発走ゲートや表彰台の後ろに、「Qatar Arc Trials」の文字が大きく書かれていたように、売上不振に悩むフランス競馬にとって、今やカタールは大スポンサー。凱旋門賞が高額賞金を維持しているのも、このカタールの全面支援によるものだ。

 カタールはドバイと肩を並べる中東の金持ち国。イギリスの老舗百貨店「ハロッズ」を買収したり、落日の欧州競馬を支えたりして、政治経済に深く食い込んでいる。

 そのカタールを金持ち国に押し上げるのに貢献したのが、実は日本。毎年、数兆円もの大金を払って石油、天然ガスを輸入しており、カタールと日本は切っても切れない仲となっている。

 日本馬が凱旋門賞でワンツーを決めることは、フランスやイギリスにとっては歯がゆいことだろう。しかし、賞金を出すカタールにとっては、お得意さんにささやかな恩返しをするようなもの。

 2頭の勝利で、凱旋門賞には日本から数多くの応援客やメディアが押し寄せることになる。馬券の売上に貢献してくれるし、メディアは凱旋門賞を大々的に宣伝してくれる。それこそがカタール側の真の狙いなのかもしれない。

 ただ戦った相手も、目標は凱旋門賞。フォワ賞もニエル賞も叩き台で、7-8分の仕上げであったことに変わりはない。前哨戦を勝ったことで、本番はマークもガードもきつくなり、なかなか楽なレースはさせてもらえないだろう。

 だが、賞金を出すカタールにとっては、政治的にも経済的にも願ったり叶ったりだ。勝機は十分にあるとみている。

血統評論家。月刊誌、週刊誌の記者を経てフリーに。著書「競馬の血統学〜サラブレッドの進化と限界」で1998年JRA馬事文化賞を受賞。「最強の血統学」、「競馬の血統学2〜母のちから」、「サラブレッド血統事典」など著書多数。

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